ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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小説

タトゥー 後編 其ノ弐

西アフリカ奥地の森のなかに住むある部族には、生まれながらにして体に模様を持つ子どもたちがいたという記録が残っている。 体の模様に関する一般的な考察によれば、いわゆる原始の入れ墨に関して、その起源は外的な要因による偶発的な身体への着色(傷や怪…

タトゥー 後編の其一

カリンがいなくなってから、ぼくは日常とは何かということを、狂った猿のように繰り返し繰り返し考え続けた。いや違う、まだ狂う前だから考え続けたのかもしれない。ぼくはまだ狂った猿ではないから、考え続けられたのかも知れない。 狂ってしまったほうがど…

タトゥー 中編

カリンがいなくなってから二年と少しが経った。 二年と少し前のあの日、「八時くらいにきみの部屋にいくね!」というメッセージを最後に、カリンはぼくの前から姿を消した。消えてしまったのが、ぼくの前からだけなのか、あるいはこの世界からなのか、それは…

タトゥー 前編

『これは宝物の場所を印した地図なんだよ。』 カリンは目を閉じてシャワーの水を頭から浴びながら、小さな声でそう言った。浴槽の湯に体を半分沈め、湯気に煙るバスルームの天井を見上げていたぼくは彼女の方に目をやった。 「母さんが、いつも幼いわたしに…

カーテンの隙間から見える白い羽のようなものは、あれはいったい日記。

ぼくの守護天使のひとりが、ある時こう言った。 「長く生きたくなんて、ないんだもん。どう生きるかなんて、わたしが決めることでしょ、そろそろ死にたいのよ、そんなこと、勝手にさせてほしいの。」 ぼくも、そう思う、大いにそう思う。 命を、その周辺のな…

醗酵する明日と、ネギとモラル日記。

あるWEBLOGに、納豆には長ネギじゃなくて玉ネギが好き、って書かれていた。 玉ネギにカラシ、それが好きだと。 それを読んで「はっ」と思い、生まれて初めて納豆に玉ネギのみじん切りを入れてみた。 その日までぼくは、納豆には長ネギしか入れたことがなかっ…

化石のように乾いた、ある朝の日記。

早朝の道端にカメが突っ伏していた。 小さいガメラみたいな姿で、たぶんイシガメの幼体だと思う。水辺からはかなり離れた場所だった。どこで生まれてどこに行こうとしていのかはわからないが、カラカラに乾いて歩を止めた状態で突っ伏しているその姿は、カメ…

モンキーモンキー、日記。

ふと、久しぶりにiPhoneの写真アルバムを開くと、iPhoneは勝手に、本当に勝手に、二年前とか五年前の写真で音楽付きアルバムなんかを作成していて、ぼくに見せつけてきた。 そんなことはわかってるよ、その頃はとんでもなく満たされていて、ぼくはパラダイス…

WとH、それがきみの名前だったR日記。

眠っている間にみる夢とは、いったいなんなのだろう。 今朝方みた夢、夢のことは忘れがちだが唯一覚えていることがある。その夢を見ている最中、何故かこれだけは覚えておかなければと思い、必死で握りしめていたことがある。夢の中なので、その理由はよくわ…

スターシップ・トゥルーパーズっぽい、Duh、日記。

早めの夕食をはじめて、早めというのは夕方の五時頃からだが、『THE FLASH/フラッシュ』のシーズン4を観ながらの晩酌の最中、うっかり、そして豪快にグリーンカレーをぶちまけてしまった。 ちなみにグリーンカレーのお供は白飯ではなく、蕎麦。 ドラマの筋書…

23時20分の、罠日記。

日常的に文章を書かなくなって、二年ほど経つと思う。 あの日、いや、ある日と言おうか、心が粉々に弾け飛んで、砕け散って、いろんなことをやめてしまった。しばらくして、やめてしまったことを少しずつやりなおそうと思ってみたけれど、もとには戻らなかっ…

あまおと

「きみは、幽霊が・・・、怖いの?」 ぼくの顔を握りしめるように見つめる彼女の眼球は、小型の蜘蛛が部屋の隅っこに毎日毎日密かに張り巡らす糸みたいな、不規則な細い血管で覆われていた。 「えっ、いや・・・、幽霊が怖いわけじゃないよ、でも・・・、た…

ともだちがデモンズ、ほんとうはデモンズ、暗黒竜巻日記。

友だちっていったい誰なんだろう、何なんだろう。 今朝、明け方に夢から覚めて、ふとそう思った。 それまで見ていた夢の中に、古い友だちが出てきていたからだ。 夢に出てきたその友だちは、嘘つきで利己主義で、ほんとうに嫌なやつだった。そして、夢に出て…

深淵のガラクタと、新たなキャットアサシン日記。

この数ヶ月ほど、ずっと感じていたことを、少し言葉にしてみよう、というガラクタ日記。 そういうことが出来るのは、自分の中身が、中身の中身が、大いなる嵐に包まれている時だということ。「穏やかなときじゃないんだ?」と、疑問に、そして反対に思えるか…

甘く香るサイエンス・フィクション

「夢のない眠りがほしいの、いまは夢なんか見たくない、ただ眠りたいの。深く深く、真っ白く柔らかい泥土に沈みこんだいみたいに、わたしのまわりにはさ、なんにもなくなったみたいに、ただ眠りたいの。」 ホコリとかパン屑とか髪の毛にまみれた床がボツボツ…

グラデーション

「夢で、あなたのことを見るの。まったく知らないどこかの職場で、すっごく古くて壁も真っ黒で、そう、工業油にまみれたような何かの工場なの。周りには女の子もいるんだけれど、誰も知ってる人がいなくて、何だかみんな顔が真っ黒ですごく怖くて。でも、知…

七時五十一分

「いま何分だ?」 「えっ?」 「時計を持ってないんだよ。」 「ああ、時間ですか、」 ぼくは慌ててズボンのポケットからiPhoneを取り出して、時刻を確かめる。 「七時五十一分です、いまは。」 老人が満足そうに笑みを浮かべてから、空を仰ぐ。 「ああ、そう…

ここでは、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない。

「白田さん、もうこの会社に来てから一年半くらいですよね?」 「うん、残念ながら。」 「はははっ、残念ながら、ですか。ぼくね、白田さん見てて、すげえなあって思うことがあって。」 「へぇ、」 「はい、会社にまったく馴染んでないこと、だって自分の前…

涙の理由

「ねえ、さっきから変な黒い虫が顔の周りをずっと飛び回るよっ、なんなのこれっ!タオルで払ってもいなくならないよ、ねえ、うざいよこれ、どうにかしてよ、もうやだよっ!」 アキが頭の狂った交通整理の女性警官みたいに、ぼくの横でハンドタオルを激しく振…

神話

「人間はさあ、動物の血だけを糧にして、生きていけるのかなあ?」 「動物の血って・・・?」 「えっ、動物の血だよ、犬とか猫とかネズミとか、もちろん人間とかさ。」 -------------------- 頭上には青と水色のグラデーションしか見えない台風一過の晴れ渡…

ヴァン・ヘルシング

「いつもすみません、なにせもうこの歳で、パソコンに関してはあなただけが頼りで・・・、もう神頼みと言ってもいい。」 「神というよりは、あなたは魔法使いよ。神様はぜんぜん助けてはくれないけれど、白田さんはぜんぶ解決してくれるでしょ。ほんとうにあ…

水晶

「今年も、海に入らなかった。」 桃香はなんだか、世界が終わる前日みたいな陰気な表情を浮かべながら、夕暮れ時の影みたいに真っ黒な伸びをして、声をあげた。 「だって、きみ、泳げないんでしょ?」 「泳げませんよ、わたし山奥の田舎のこだから、学校にプ…

『クロガミ』

「なにか怖い話を、聞かせてよ。」 「怖い話って、こんな炎天下の真っ昼間に?」 「うん。」 山奥のバス停で出会ったその女性は、自分の名前を「フォーティーン」だと名乗った。なぜフォーティーンなのかと言えば、自分が14歳だからだと彼女は言った。 「14…

黄金と月の湖

「おとといさ、湖でたくさんのエイが空飛ぶ絨毯みたいに泳ぎ回っているのを見かけたんだよ。最近ずいぶん暖かくなってきたから、湖岸には透明な緑色をしたさ、そしてなんだかやけに禍々しい渦を巻いた水草がモサモサ生え出してて、その水草の上をエイたちが…

薄暗いけれど鮮やかな濃夢

十四歳の頃に知り合った、ぼくのただひとりの、おそらくただひとりだと言ってもいい友だちが、自ら命を絶った。 都内でも有数のとんでもなく高いビルから、警備員の制止を振り切って飛び降りたと聞いた。六十階のビルだ、生きてかえったなら、酒のつまみには…

ゴラダームの穴の話

道端で、目の前を歩く見知らぬ老婆が唐突に転んだので、何も考えることなく慌てて咄嗟に駆け寄って手を差し伸べた。 「だいじょうぶですか?」 「ああ、ああ、ありがとうね、ぜんぜん大丈夫だけん、あんたみたいに若くても、うっかり転ぶでしょう。そのうっ…

ダークネス

「先が見えない道を歩くのって、あたし、けっこう好きなんだよ。」 狭い台所の小さな流し台で、ぼくの身体の右側面に磁石に吸い寄せられたブリキ人形みたいに引っ付いてカタカタと洗い物をしているミラが突然手を止めて、たぶんまだブリキにはなりきれないで…

アルファとオメガの水色

ぼくが振り返ると、ミラは自転車の正面をぼくの立っている場所とは反対に向けたまま、ぼくの方に体を振り返らせ、何か湿り気のある小さくて透明な柔らかい球体を覆い隠すような悲しげな笑みを浮かべて、こちらをずっと見ていた。その姿を見て歩みを止めたぼ…

第零話 - 現像 -

ぼくが毎朝、駅まで向かう途中で通り抜ける小さな自然公園の遊歩道で、毎日ではないのだが、必ず同じ時刻に公園内ですれ違う女性がいる。 髪は健康的な心地の良いショートヘアーで、上品だがなにか常識を外れたような黒縁のメガネをかけていて、会うたびに耳…

ハリネズミの微笑み

午前七時過ぎ、ぼくがベッドの中で微睡んでいると、ベッドの脇のサイドテーブルに置いてあるiPhoneにメッセージが送られてきた。 昨日は、ごめん。 ぼくはベッドの中でしばらく、ただ一言だけ送られてきたその言葉を何度と無く読み返してから、起き上がった…