薄暗いけれど鮮やかな濃夢
十四歳の頃に知り合った、ぼくのただひとりの、おそらくただひとりだと言ってもいい友だちが、自ら命を絶った。
都内でも有数のとんでもなく高いビルから、警備員の制止を振り切って飛び降りたと聞いた。六十階のビルだ、生きてかえったなら、酒のつまみには最高の話だろう。けれど、彼はそのまま地面で肉塊となって飛び散り、涙も笑顔も目玉も内蔵も糞も、糞もだ、何もかも飛び散り、あとは、誰にも相手にはされなかった。
彼はもちろん、笑っていたに違いない。
おまえなら、唇を歪めていたにせよ、笑っていたに違いない。
正直に言えば、彼のことは好きでも嫌いでもなかった。だが、友だちではあっただろう。
そういうことは、誰にでもある。
近くにいる誰かが、果たして誰なのか、そんなことは、わかるはずもない。
友だちなのか、友人なのか、血のつながった家族なのか、血のつながっていない家族なのか。
恋人か、愛人か、あるいは、そうではない、誰かなのか。
彼がその最後の、その極まった直前に、ぼくの携帯端末に短いメッセージを送っていた。
そのことで、ぼくはさんざん厄介な尋問をされることになったが、それは、いつかの一杯のとんでもなく高い酒のおごりの分だと、そうしておこうと思うことにした。
それはなんてことはない、本当に短い、彼の叫びだった。おまえらになんて到底、一生、わからない、純朴な手紙だった。
「おれがあの日、あの日常が怖くて怖くて仕方がなくて、泣き叫んだこと、誰にも言わないでくれよ。おれはおれなりに、戦ったんだ。そしてたぶん勝ったんだよ。でもさ、それはおれにしか、わからないことだった。」
紙に書きなぐったような、続きがあった。
「おまえには、わかってほしい、ずっとずっと先でもいいから。」
月白貉