カーテンの隙間から見える白い羽のようなものは、あれはいったい日記。
ぼくの守護天使のひとりが、ある時こう言った。
「長く生きたくなんて、ないんだもん。どう生きるかなんて、わたしが決めることでしょ、そろそろ死にたいのよ、そんなこと、勝手にさせてほしいの。」
ぼくも、そう思う、大いにそう思う。
命を、その周辺のなんだらかんだらを、とんでもない、いやトンを遥かに超える重みとして押し付けるのは、たいていは宗教やら偽善的な社会だったりして、本質的に生きるということに関して、そういう半ば邪悪な力が、それをさ、生きるということを圧倒的に捻じ曲げていると、ぼくは思っている。
一日の中で、小さな虫たちを何匹も殺すことがある。小さな小さな虫は、指先で押し付けるだけで、藻屑と消える。少し大きな虫だって、指先だけでもたやすく殺せる。
ぼくはずっとそのことを、少しだけ疑問に思っている。いや子供の頃は、そんなこと疑問になんて思いもしなかったよ。毎日毎日、蟻を指で押しつぶしたり、足で踏み潰したり、あるいは多くの虫たちを殺しまくっていた。魚や鳥や、あるいは犬や猫とかをあえて殺したことはないけれど、でも、鳥や魚を捕まえて、その結果死んでしまったことはあるし、うん、よくわからないけれど。
何かを殺す理由は、たとえば小さな虫を殺す理由は、何なのかな?
突発的な快楽もあるかも知れないけれど、たぶん純粋に、不快だとか、うっとおしいとか、邪魔だとか、そういうことだよね。
人間が人間を殺す理由も、本質的にはたぶんそんなに変わらないと思う。
だからこの世界から、戦争はなくならない。相手が虫との戦争も、鳥との戦争も、獣との戦争も、もちろん人間同士の戦争も、ぜんぶ根本は同じだからだろうなあ。
なんの話だったかな、もうよくわからなくなったけれど。
守護天使に、ぼくはこう言った。
「ぼくも同じだよ、長く生きたいなんて思わないし、もうそろそろ十分だと思ってる。やるべきことは大方終えたよ。そしてそれは自分が決めることだ。でも、この世界にはいろんなことを言う奴らがいて、命は大切だとか、健康がどうとか、長生きがどうとかさ。そんなこと、クソのかけらさ。だから・・・、」
「だから・・・?」
「いや、その先を言い出したら、ぼくもクソのかけらとおなじになっちゃうから。」
「そうだよね、」
「うん。」
「私があなたを好きだなって思ってるところ、知ってる?」
「いや・・・、」
「すっごく悪い子なのに、それをなかなか表には出さないの、巧妙に隠してるの。」
「それは知ってるよ。」
「そうでしょうね、だから、その悪い子の部分をちゃんと制御してるの。悪いって言ったら失礼かもしれないね。なんだろう、例えれば、自分の中の混沌をさ、ある程度制御して生きてるの。ただ、そういう事柄って、なかなか完全になんておさえられないのよ。」
「うん・・・、それも知ってる。」
「私が、さっき、長く生きたくなんてないって言った時、あなたはなんだかすごく静かな笑みを浮かべたの。」
「そうだったかな・・・、」
「悪い子は、たいてい純粋なの。」
「それって、」
「まってまって、もう少しだけ聞いて、」
「うん、」
「あなたは悪い子で純粋だけれど、でも少し色が違うの。少しじゃないのかな、圧倒的に違う色を帯びてるのかもね、だからね、あなたを時々、真剣に護りたいって思うの。」