ここでは、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない。
「白田さん、もうこの会社に来てから一年半くらいですよね?」
「うん、残念ながら。」
「はははっ、残念ながら、ですか。ぼくね、白田さん見てて、すげえなあって思うことがあって。」
「へぇ、」
「はい、会社にまったく馴染んでないこと、だって自分の前にはったシールドみたいなものを、絶対にとかないでしょ。なんだろう、透明な、でもすっごく強固な見えないカーテンみたいなものがあって、いや、ぼくにはね、けっこう近付かせてくれるんですよ、なんでかわかんないけど。でも、近付いても、シールドはあるんですけどね、はははっ。」
「ふ〜ん、そっか。」
「そうですよっ、そのシールドね、透明なんです。あたりまえか・・・、あたりまえかもしれないけど、見えないんです。見えないんだけれど、なんて言ったらいいのかなあ、例えば白田さんが嫌いな人いるじゃないですか、社内にね。」
「たくさんいるね。」
「はははっ、でしょうね。そういう人に対しての白田さんのシールドって、バリアっていうか、あっ、攻性防壁みたいで・・・、シールドをはってることわかってて、ナメてかかってくる人っているじゃないですか。」
「うん、いっぱい、いるよ。」
「白田さんのシールドって、そういう人を容赦なく焼くんですよ、焼き殺す、ははは・・・、うまく言えないなあ、でもなんだか見てて、もはや清々しいというか。」
「焼き殺してるつもりはないけれど、あっ、ちょっとあるかな。でも、嫌なやつにはさ、極力笑顔は見せないことにしてる。いや、だって笑えないんだよ、笑えない、顔が引きつっちゃって、無理して笑ったりしたら肉が裂けて血が飛び散るよ。」
「そんなに・・・、ですか・・・。」
「そういうこと、あるでしょ。そして飛び散る血がさあ、異常に強力な酸で、浴びたらやばいやつなんだよ。」
「エイリアンかよっ!ああ・・・、でも、言われてみれば、あるかもなあ、無理に笑顔を浮かべた顔面を、肉が裂けないように必死で手で押さえつけること、ありますよね・・・、あれって苦しい・・・、口元が痙攣しちゃって、凍ったみたいに表情がうまく動かなくなって、だけど震えが止まらなくて・・・、あるなあ、今言われて、なんか気が付いたようなきがします・・・、あるよなあ。」
「だったら、レッスンワン、終了だな。」