ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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小説-短編

鬼の屍

こんな夢を見た。 「神狩さん、私、一緒に付いていってもいいですか?」 ーーーーーーー とあるパン製造の会社でアルバイトを始めたぼくは、会社の社員旅行で九州の宮崎県に来ている。 ぼくの部署の上長に旅行の誘いを受けた際にぼくは、自分が社員ではなく…

短いあとがき - 『南にある黒い町』

2017年9月26日火曜日、物語の始まりであり終わりとして描かれているこの日と同じ、現実世界のこの日に、ふと思い立って書き始めた『南にある黒い町』という物語。 『南にある黒い町』:第十五章(終章)- 黒い町 当初はぼんやりとした塵ほどのプロットしかな…

第十五章(終章)- 黒い町

前回の話:第十四章 - 肉食 「あるいは、婆様も人を喰らっているのかもしれん。」 「人を・・・って・・・、その、中身をってことですか?」 猿神はその問いに対してしばらくの間何も答えず黙り込んでいた。 「おまえが自分で聞いてみればよかろう。先ほどの…

第十四章 - 肉食

前回の話:第十三章 - 闇の中 -『南にある黒い町』 体をこわばらせて床に胡座をかくぼくを、猿神は随分長い間、物珍しそうにしながら、しかしじっと睨みつけている。 時折、猿神の背後に座っている三つの人影が、それぞれに身を捩らせながら何か小さな言葉を…

第十三章 - 闇の中 -『南にある黒い町』

前回の話:第十二章 - 眠り 猿神はおもむろにぼくのスニーカーから足を下ろし、一瞬だけぼくの顔をチラリと見上げると、鳥居の下をゆっくりとくぐり抜け、真っ白い尻尾を揺らしながらピョンピョンと暗がりに続く神社の石段をのぼり始める。 そして、鳥居脇に…

短編小説『南にある黒い町』プロットと単行本表紙デザインなど

しばらく書き続けているラフ的な物語が案外と長くなってきたので、小説のタイトルとプロット再考、そして単行本を想定した表紙デザインなどを掲載してみようと思う。 タイトルはまだ暫定ではあるが『南にある黒い町』(Black Town in the South)。 もし物語…

第十二章 - 眠り

前回の話:第十一章 - 豪腕 切通しの緩やかな坂道を一気に滑り降りるようにして走り続けるぼくの背後から、佳子ちゃんの激しく泣き叫ぶような声と、真夜中にどこからともなく聞こえてくる怪しげな鳥の鳴き声のようなギャーギャーという奇声とが入り混じった…

第十一章 - 豪腕

前回の話:第十章 - 新たな悪夢 『このまま走り続けろ。』 地面から湧き上がるような猿神の声が頭にこだまし、背中から一陣の冷たい風が立ち昇る。するとぼくの頭上から弧を描くようにして、何か淡く白い光の塊のようなものがぼくの駆け上がっている坂道の目…

第十章 - 新たな悪夢

前回の話:第九章 - 猫の爪 曲がりくねった坂を下り終え、その先の住宅街の中にまっすぐと伸びる薄暗闇に包まれた道に弾丸のような速さで突入したぼくは、刹那ほどの時間だけ目を閉じて改めて静かに呼吸を整えなおし、無心に足を駆りたて、手を振り続ける。 …

第九章 - 猫の爪

前回の話:第八章 - 合図 ラゴはぼくの頭の中に合図を放つやいなや、ぼくの方には一切顔を向けずにバックパックをブンと振り回して背中に背負い直し、しかしぼくに背を向けたまま大きく右腕を振り上げ、ぼくの方に掌の甲を掲げて手を振った。それがぼくへの…

第八章 - 合図

前回の話:第七章 - 黒い恐怖 団地の周囲を取り囲む鉄柵も、そして外灯ポールも生い茂る草木も、まるで竜巻の只中にでもあるかのように縦横無尽に、今にもすべてが吹き飛ばされんばかりに激しく揺れ動いていた。外灯の明かりは切れかかる寸前のようにビカビ…

第七章 - 黒い恐怖

前回の話:第六章 - 孤独な蛙 かつてこの場所にあった黒木山を一部切り崩して建設された南黒町団地は、その背後に幾つもの低い山々が連なる町の外れの高台にあった。 団地のある高台の上へと続く大蛇のようにうねった坂をあがりきると、もう誰一人住むものが…

第六章 - 孤独な蛙

前回の話:第五章 - 尼僧と猿神 廃神社から団地までの道は、塩田とぼくが何度も何度も飽きるくらいに往復した、ある意味ではぼくと塩田を結んでいた道だった。 ぼくは中学の三年間、いじめにあっていた。 厳密に言うとそれは、ぼくが複数の誰かに直接的な危…

第五章 - 尼僧と猿神

前の話:第四章 - 兵法 9月25日午後9時、ぼくは祖父とラゴと共に南黒町団地から約二キロほど離れた廃神社の鳥居の前にいた。 鳥居の周囲にほとんど街灯はなく、鳥居のすぐ脇にある電信柱に設置された防犯灯だけが、鳥居の周囲を古びたモノクロ写真みたいにぼ…

第四章 - 兵法

前の話:第三章 - 魔女の罠 「ちょ、ちょっと待ってくれラゴちゃん、そりゃ絶対に駄目だ!ハクトを巻き込むことはできん!!食事を一緒にするのとはわけが違うぞ!」 「なんでだい?」 「なんでもヘチマもない、きみが一番良く知っているだろう!ハクトはこ…

第三章 - 魔女の罠

前回の話:第二章 - 魔女の儀式 9月24日の夕方、ぼくがラゴとの軽い挨拶を終えて祖父に言われた通り自宅に戻ろうとすると、彼女はぼくのことを引き止めた。 「なんだい、もう帰っちゃうのかい?」 「ああ、私が帰れと言ったんだよ。ずいぶん大変なことがあっ…

第二章 - 魔女の儀式

前回の話:第一章 - 団地の魔女狩り 9月24日の日曜日早朝、南黒町団地に隣接する通称「ゴリラ公園」の公衆トイレの中で、塩田と塩田の両親、そして妹の佳子ちゃんの死体が発見された。 第一発見者はぼくの祖父で、祖父は前日の塩田の母親の相談を踏まえて、…

第一章 - 団地の魔女狩り

前回の話:序章 - 団地の魔女 - 9月22日、ぼくが下校途中に塩田と川縁を歩いていると、ちょうど塩田の住んでいる南黒町団地の辺りの上空がやけに黒々とした雨雲に覆われているように見えた。ぼくは塩田にそのことを言おうとしたが、ふと思いなおして口から漏…

序章 - 団地の魔女

2017年9月26日火曜日、涼し気な空気を疎むようにして振り返った太陽の視線がめっぽう眩しかったこの日、ちょうど一週間前から近所を騒がせていた不気味な事件が幕を閉じた。 事の起こりは9月19日の夕方、南黒町にある一部廃墟と化した公営団地に隣接する雑草…

聾のもの

朝七時にたっぷり過ぎる朝食を摂り、食後の洗い物を済ませてから洗濯機の中に汗にまみれた衣服を叩き込み、洗濯を開始する。轟々と唸りを上げる洗濯機の音と窓の外から流れ込んでこんでくる初秋の涼やかな風がやけに相性良く感じるのは、巨大な滝壺にいる感…

聴唖のもの

「ケンジ、おまえあのこと誰かに話したか?」 「話してないよ、だって話したって誰も信じないだろ。」 「ユキトは話したのかよ?」 「いや、話してはいないんだけど、昨日ネットで調べてたらちょっと関係ありそうなことをブログで書いてる人がいたんだよ。」…

盲目のもの

秋を目の前にしたある日曜日の夕暮れ時、私は妻に頼まれた買い物をするために近所のスーパーマーケットに歩いて向かっていた。その途中、地元で黒山道と呼ばれている小さな切り通しの道に差し掛かると、木々に覆われた薄暗い道のど真ん中に、キツネ色の短パ…

ありふれた恐怖

開け放たれた窓の外から部屋の中に吹き込んで来る風には、どんよりとした微睡みのような生温かい水分が多量に含まれていた。 台所のガスコンロの脇の壁に油性のマジックで殴り書かれた文字を残してサチコが姿を消してからちょうど48時間が過ぎた。 私は今、…

耳の中の違和感と、本当はコワい真夏の心霊写真交換会の話。

関連する物語:邪教徒の影を匂わせる、本当はコワいトンネルの話。 トンネルを訪れた日の夜を境にして、ぼくは就寝後に毎晩、真夜中の二時過ぎになると必ず左耳の奥に虫が入りこんだような異物感を感じて飛び起きる日々が続いていた。 耳の中に羽を持ったハ…

邪教徒の影を匂わせる、本当はコワいトンネルの話。

関連する物語:普通の人間霊と野生の人間霊と、もっと高いところにいる本当はコワい霊の話。 トンネルに足を踏みれたぼくが、その異常な冷気や湿度を差し置いてまず感じたことは、暗闇の中を満たしている言葉で表現することの出来ない匂いのようなものだった…

普通の人間霊と野生の人間霊と、もっと高いところにいる本当はコワい霊の話。

関連する物語:デジタルカメラに搭載されている、本当はコワい制御機能の話。 キルクの運転するずいぶん旧型のハイエースで目的地のトンネルに向かう二時間ほどの間、ぼくは助手席に座ってキルクの語る様々な話にずっと耳を傾けていた。 「パパは、もうずい…

デジタルカメラに搭載されている、本当はコワい制御機能の話。

前回まで:目に見えている非日常と、目に見えていない本当はコワい日常の穴の話。 「これって、人口のトンネルなんですか・・・?」 今はほとんど使われなくなったような路面の荒れ果てた山間の旧道を一時間ほど徒歩で進んでいた二人の前に姿を現したのは、…

目に見えている非日常と、目に見えていない本当はコワい日常の穴の話。

前回まで:山頂の不気味な無縫塔と、本当はコワいOZUNOの話。 オズに指定された日曜夜10時の5分前にOZUNOのウェブサイトにログインすると、キルクというハンドネルームを持つ管理者がすでにチャットに待機していた。 その表示を確認してからぼくは一旦ノート…

山頂の不気味な無縫塔と、本当はコワいOZUNOの話。

前回まで:ねえきみ、本当にコワい心霊写真って撮影したことあるかい?の話 OZUNOで共有されている様々な心霊スポットの情報に毎夜酒を飲みながら目を通すという日々が一週間ほど続いた。 OZUNOに参加しているメンバーは公表としては33人という実に少ない数…

ねえきみ、本当にコワい心霊写真って撮影したことあるかい?の話

トンネルの前まで辿り着いた頃には、すでに午後三時をまわっていた。 その日の空は呆れ返るほど幻想的な晴天で、かつて空に雲というものが浮かんでいたという事実が記憶から抹消されるほどに、まったくと言っていいほど雲ひとつない青々とし過ぎた夏空だった…