ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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短いあとがき - 『南にある黒い町』

2017年9月26日火曜日、物語の始まりであり終わりとして描かれているこの日と同じ、現実世界のこの日に、ふと思い立って書き始めた『南にある黒い町』という物語。

 

『南にある黒い町』第十五章(終章)- 黒い町

 

当初はぼんやりとした塵ほどのプロットしかなく、ほぼ行き当たりばったりで書き始め、一週間で、つまり序章を含めて全七章で終りを迎える断片的な話の集合体として考えていたこの物語は、結局蓋を開けてみればその倍ほどの全十六章に及んでしまった。

 

各章を加筆修正してゆけば、そこそこの長さのもう少しまともな物語にもなりそうなので、時間がある時にでも再び手を入れていこうと思ってはいるが、一応、これはこれである程度の完成形として吐き出された雑然たる物語として、稚拙ながらも味わいのあるものになっているのではないかと、個人的には思っている。

 

物語の裏主人公として、ぼくは猿神と呼ばれる存在に重きを置いている。

 

少し余談になるが、ぼくの夜見る夢の中に、不気味な猿の面をかぶった黒ずくめの男が頻繁に姿をみせるようになったのは、数年前からのことである。ただこれは記憶にある限りなので、あるいはもっとずっと昔からかも知れない。ただ、その男は夢の中の主要登場人物ではない。さらに、夢の中でその猿の面の男は、ぼくに自分の存在を勘付かれまいとして振る舞っている風が感じられる。それはまるで、その男が実は夢の中ではなく、現実世界で眠っているぼくの部屋の陰で、夢を見ているぼく自身をじっと監視しているかのような不気味な黒い影を漂わせながら、いつも夢の中の視界ギリギリのところに佇んでいたり、座り込んでいたり、物陰にかくれていたりしながら、ぼくのことをじっと見つめている。実際にはそれが男なのかどうかも、よくわからない。

 

ご存知のように、夜見る夢の内容というものは、眠りから覚めてしまうとすぐに記憶の泥土に沈み込んで大方忘れてしまうことが多い。その為、ずいぶん前に一時だけだが、目が覚めるとすぐに夢日記を付けていたことがある。そこで気が付いた。ぼくの夢の中にはいつも、それがどんな夢でも、必ず猿の面をかぶった男がぼんやりと浮かび上がってくるのである。

 

物語に登場する猿神と呼ばれる存在には、その猿の面の男の欠片を埋め込んでいる。そして本来は、この猿神の怪しげな背後をメインに描きたかったのだが、そこに手を出す前に、物語はうっかり終わりを迎えてしまった。

 

だからそれは、また別の機会に。

 

最後に、いつも読後の吐息を聞かせてくれたみどりの小野さんをはじめ、我儘な物語にお付き合い頂いた奇特な方々に、厚い感謝を。

 

短いあとがき - 『南にある黒い町』

 

 

 

 

月白貉