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ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲が自らの感覚で日本を歩きまわって見聞を広めたように、故郷を離れて旅を続けるぼくが、ぼくの感覚でその土地を歩き回って、見たり聞いたり嗅いだり触ったりした、ぼくの見聞録です。

他人の焼き鳥に便乗して賢者になるくらいなら、 むしろ自分の冷奴だけに頼る愚者であるほうがましだ。

ぼくがちょっとした用事で、少し遅れて赤羽のいつもの焼き鳥屋に到着すると、店長は店先のいつものドラム缶をいつものように陣取っていて、でも飲んでいたのはいつものホッピーではなく、珍しく瓶ビール、銘柄はSAPPOROだった。 「すいません、遅くなっちゃ…

ツキモンGO

私が妻に軽く揺り起こされて目を覚ましたのは午前九時を少し回った頃だった。 「はいはい、天気がものすごくいいから、シーツ洗わなきゃいけないからね、いつまでもシーツと戯れてたら洗えないでしょ。」 「うん・・・、あっ・・・、わかったごめん、起きる…

ありふれた三幕構成の物語

第一幕『昼』 季節がひとまわり。 久しぶりにこの場所に来てみる。風が気持ちよい。ずいぶん前にここに来た時にも、風が気持ちよいと、そう言ったことを思い出す。そして風が気持ちよい時には、いろんなことがうまくいくはずだけれど、果たして。 一年が過ぎ…

座敷わらしが見える時間、その理論と実践。

夕暮れ時に家に帰ると、玄関の靴入れの上に、A4サイズのボロボロに使い込まれたようなノートが置いてあった。 まったくブランド名などは記されていない無地のものだったが、表紙の中央には黒くて太いマジックで『理論と実践』という文字が、子供の落書きのよ…

乗らなかったロープウェイと、登らなかった山の話。

それはもう、三十年ほど前の話になるだろうか。 子供の頃というのは、日常的な生活の中で不可思議なものを見たり、奇妙な気配を感じたりといったことがしばしばあるのは、誰しも同じだと思う。 その理由には様々あるだろうが、大人に比べて感覚が研ぎ澄まさ…

第十六話『魔術』- 午前二時に何かが降りてくる、階段の怪談 -

この話は、午前二時になると何かが降りてくる、どこにでもある普通の階段にまつわる怪談の十六話目です。前の話を読みたい方は、以下のリンクから、どうぞご自由に。 ユカさんは、ぼくとダイキさんの顔を交互に何度か見て、それから目を瞑ってソファーの背も…

私が花火大会に行かなくなった理由

数年前の八月に起きた出来事をきっかけに、私も妻も、その後二度と花火大会には行かなくなった。 その年の夏は、雨がまったくと言っていいほど降らず、まさに地獄のような暑さだった。 市内の湖で毎年恒例の花火大会が行われるということで、私はその日、ま…

ハイドライド・スペシャルの魔法、あるいは真夏の夜の夢。

小学校が夏休みに入ってからまだ日も浅いカンカン照りの水曜日、ぼくが鮫島くんの家に着くと、いつものメンバーがいつものような顔を並べて、居間の畳に座ってお菓子を食べたりこぼしたりしながら、小さなブラウン管テレビを取り囲んでファミコンをやってい…

夏休み前の小学校によくありがちな、赤マント的吸血鬼の話。

ぼくが小学三年生の時の話。 夏休みを目前に控えたある日、二時間目の国語の授業が始まってすぐに、渡辺くんが手を上げてトイレに行きたいと言い出した。 おそらくは大きい方だったと思うのだが、渡辺くんが顔を真っ赤にして、椅子から腰を浮かせて体をモゾ…

カミサマトンボとアリジゴク

風が止んで茹だるように暑い夏の昼下がり、私は妹と一緒に近所の古い鎮守様の境内で、本殿の床下に山ほど築かれた蟻地獄に蟻や団子虫を落として遊んでいた。 太陽の光がカラカラと木陰に舞い落ち、蝉がその光に合わせてケラケラと笑う。 「おねえちゃん、ア…

第十五話『占いババ』- 午前二時の、ありふれた階段の怪談 -

この話は、都内某所にある、ありふれた階段にまつわる怪談の十五話目です。前の話を読みたい方は、以下のリンクから、どうぞご自由に。 小野さんという女性に電話をかけてから十五分ほど過ぎた頃だろうか、彼女が大きく手を振りながらぼくたちの座る席に駆け…

四日『酔いどれ幽霊談義』- 八月怪談 -

「よくさあ、テレビの心霊番組なんかで、壁から女が出てきたとか、天井から子供の顔だけが覗いてたとかいう話が出てくるけどさ、幽霊って、そういう物質を通り抜けちゃうものなの?」 野田は酒を飲みだすと、いつも決まって幽霊とか妖怪とか伝説とか、そうい…

ポートピア連続殺人事件 #2 狂王の試練場 

「ねえねえ、隣の店の電気まだ点いてるよ、大丈夫なの・・・?」 「いや、あれは防犯灯だって、もう午前0時を過ぎてるんだよ、コンビニじゃないんだから、あんな店なんか今の時間やってるわけないだろ。」 「だって通報されたら犯罪者じゃん、やだよ、警察…

ウィザードリィ連続殺人事件 #1 狂王の試練場

噂というのは大抵の場合、それが広がれば広がるほどに、口伝えになればなるほどに、誰かの手垢に塗れれば塗れるほどに、大本の事実からはまったく別の姿に変形してしまい、あるいは違う色で塗り固められてしまう。 だから実際には原型の数パーセントほども、…

三日『天使と悪魔』- 八月怪談 -

一週間ほど前から下腹部に鈍い痛みがあった。 このところ仕事が忙しい上に社内での揉め事が多く、すいぶんと精神的なストレスも溜まっていた。それを洗い流すかのように、毎晩のように営業主任の高橋さんと仕事終わりに大酒を喰らっていた。 「このあいだか…

二日『神喰い』- 八月怪談 -

朝起きると、居間のテレビの上に置いてある宝船の七福神がすべていなくなったと言って、祖母が騒いでいる声が階下から聞こえた。 「ミホさん、ミホさん、テレビの上の七福神さんが、みんないなくなってるけれど、どうしたのかしら!?」 町内会の旅行でどこ…

赤い体のコダックがいる場所 - ポケモンパンデミック -

坂本から夜遅くにメールが届いた。 - ポケモンGOのポケモンにおかしな種類いるけど、川田これ知ってる? - 添付された写真を見てみるとコダックの色違いのようで、体の色が少し赤みがかっていてブツブツした斑点のようなものが付いている。さらに片方の目が…

朔日『白い毛玉』- 八月怪談 -

毎月のついたちになると、きまって奇妙な白い毛玉のようなものを見かける。 見る場所は定まっていない。朝の出勤途中の路肩のゴミ置き場にいることもある。駅のホームの一番端の暗がりにいることもある。公園の砂場や、コンビニの駐車場や、自動販売機の脇や…

ほんとうに恐い怪談を書くのは、ほんとうはほんとうに難しい話。

花火は好きだが、花火大会なんてもので、わざわざ怒涛の如き人混みに洗われながら、もみくちゃになりながら、空に散る花火なんか見ても、ひとつも楽しいものだとも、美しいものだとも思えない。 「あの橋のね、欄干にこうやって、ちょいと肘なんか掛けて見る…

ワン(one)

自宅の庭にある家庭菜園に、人間の成人男性を遥かに超える大きさの、蟷螂のようなものが立っているのを見たのは、もう真夜中を過ぎた頃だった。 寝苦しい熱帯夜に揺り起こされて徐ろに目を覚まし、暗闇に包まれた部屋の中を、病院内をヨタヨタと歩く重病人の…

第十四話『カマキリの腕』- 午前二時の、誰かがいる階段の怪談 -

この話は、いつかどこかの真夜中の、普通の階段にまつわる怪談の十四話目です。前の話を読みたい方は、以下のリンクから、どうぞご自由に。 大通り沿いの目についたガストに入ったぼくたちは、クーラーの効いた店内のソファーに、三者三様にため息をつきなが…

第十三話『石神井公園の鬼』- 午前二時の、誰もいない階段の怪談 -

この話はおそらく、真夜中の階段にまつわる怪談の十三話目くらいです。前の話を読みたい方は、以下のリンクから御覧ください。 占い師の老婆は、その日姿を現さなかった。 ユカさんの話だと、その老婆は石神井公園の一角に、ボロボロの小さな木製の丸テーブ…

ポケモンが見えるサングラスGO

夜明けを少し過ぎたある夏の日の朝、目を覚ますと、ベットの隣で香澄がうつ伏せになって、苦しそうにカタカタウーウーと音を立てている。 どうやらいつもの偏頭痛が激しく襲いかかってきているようで、身動きはまったくしないが、体内のモーター音だけが唸り…

あの日のドラゴンクエストIII そして伝説へ・・・

その日、ぼくの目に映った東京の街は、もうすでにまったく見慣れたものではなくなっていて、どこか見知らぬ場所に迷い込んだような気がして、少し心細かった。 東京を離れてから、もう五年の月日が流れた。 たくさんのものをこの場所に置き去りにしてしまっ…

第十二話『桃と林檎』- 午前0時の、もっと誰かに読んで欲しい、本当は怖い階段の怪談 -

まだ前の話を読んでいない方、この話には前があります。まあ、もっと誰かに読んで欲しいんですが、普通の階段の話なんですよね。 「川ちゃん、今日この後予定はあんの?」 ユカさんは三階の事務所に用事があるからといって二階フロアの奥にある階段を昇って…

第十一話『二匹の猫』- 午前0時の、猫たちには見えている、階段の怪談 -

まだ前の話を読んでいない方、この話には前があります。まあ、猫たちにしか見えていない、普通の階段の話ですがね。 ユカさんは、テーブルの上に置かれたグラスの烏龍茶を、ストローを使ってすごい勢いで一気に飲み干した。そして「は〜っ。」と言って大きな…

第十話『魔のもの』- 午前0時の、本当は誰かが読んでいるらしい、普通の階段の怪談 -

まだ前の話を読んでいない方、この話には前があります。まあ、誰かしらが時々読んでいる程度の、普通の階段の話ですがね。 ダイキさんが「飲み物持ってくるわ、川ちゃん何がいい?」と言ったので、ぼくは「じゃあ、ジンジャーエールでお願いします。」とこた…

第九話『事情聴取』- 午前0時の、本当は読まれていない、普通の階段の怪談 -

まだ前の話を読んでいない方、この話には前があります。まあ、誰にも読まれていませんし、普通の階段の話ですがね。 「川田くん、昨日の今日でほんとごめんね・・・。で、早速で悪いけど、二階の個室でちょっと話そう。」 カラオケボックスの営業は、午後一…

第八話『記憶の歪』- 午前0時の、本当は怖いけれど誰も読まない、普通の階段の怪談 -

まだ前の話を読んでいない方、この話には前があります。まあ、特に何の変哲もない、しかし本当は怖い、普通の階段の話ですがね。 ダイキさんが玄関のチャイムを鳴らしたのは、その二十分ほど後のことだった。 「わりいな、休みの日なのに・・・。なんかちょ…

第七話『闇に飲み込まれる人々』- 午前0時の、誰も降りてこない、階段の怪談 -

まだ前の話をお読みいただいていない方、この話には前があります。まあ、ほとんど誰も昇り降りしないような、普通の階段の話ですがね。 バナナの最後の欠片を口に含んだまま、ぼくはすぐにバックパックを背負い、ダイキさんとユカさんの家を後にする。 ポケ…

第六話『ピカチュウ』- 午後0時の、ほとんど誰も読んでいない、普通の階段の怪談 -

まだ前の話をお読みいただいていない方、この話には前があります。まあ、ほとんど誰にも読まれていないような、普通の階段の話ですがね。 ビールのアルコールで神経の高ぶりが緩んだのか、急に激しい睡魔が襲ってきた。 「ダイキさん、すいません、ぼくもう…

第五話『ゼロの部屋』- 午前0時の、誰も読まない、階段の怪談 -

まだ前の話をお読みいただいていない方、この話には前があります。 ぼくはその日、ダイキさんとユカさんが暮らす二階建ての古い借家に泊まることになった。 土曜日は店にとっては週の中でも一番の稼ぎ時であり、つまりは一番の忙しさでもある。だからいつも…

第四話『窓から覗く影』- 午前0時の、誰も読まないであろう、普通の階段の怪談 -

まだ前の話をお読みいただいていない方、この話には前があります。いまは午前10時、陽も高々と上がっている時間ですから、もうすでにお読みのことと思いますがね。 店の入口の前の道路には、ユカさんのお父さんが所有している黒のワンボックスカーが横付けし…

午後0時なので、誰かしら読むであろう、本当は怖い普通の階段の怪談。

まだ前の話をお読みいただいていない方、この話には前があります。まあ、いまは午後0時、昼の日中ですから、もうすでにお読みのことと思いますがね。 店長の名前は伊坂ユカ、ご亭主の名前は伊坂ダイキ、二人ともぼくより少し年上で、ユカさんが働くこのカラ…

午前0時の鐘がなり、誰も読むはずがないけれど、本当は怖い階段の怪談、草木も眠る続きへようこそ。

まだ前の話をお読みいただいていない方、この話には前があります。まあ、もう午前0時ですから、草木も眠りますし、誰も読んでいるはずがありません。 「電気・・・スイッチ・・・付け直してみたら、どうかな・・・。一回消して、また付け直してみたら・・・…

スーパーヒーローは、本当にいるのか?

数十年、日本で生きてきて、スーパーヒーローに助けられたことがない。 数十年も生きていれば、小さいトラブルも大きいトラブルも、スーパーなトラブルもあるのが、人生というものだ。 だから時には、アメリカ映画に出てくるようなスーパーヒーローが、困難…

午前0時になったので、誰も読まないのは承知だが、本当は怖い階段の怪談、その続きが愛おしい方へ。

まだ前の話をお読みいただいていない方、この話には前があります。まあ、もう午前0時ですから、誰も読んでなどいないはずですがね。 部屋の天井の蛍光灯は、パチ、パチパチパチ、パチ、パチパチ、パ、チ・・・、という不規則な音を奏でながら、一本が三十秒…

追伸、火花スパークス

「さっきさ、つっちゃん、又吉の火花、立ち読みしてたでしょ。どんなふうだった?」 店長は、三枚持っているから買わないと言っていたグリーンマイルのDVDを何故か一枚しっかり買っていて、ずいぶん気分が高揚しているようだった。 「読んだって言っても、冒…

遠足のおやつにバナナが入らない理由

時々、スーパーマーケットには「ワケあり!」などと書かれた、定価からずいぶんと価格を下げた商品が置かれていることがある。 例えば野菜だったら、曲がってしまって見栄えの悪いキュウリだとか、育ち過ぎて二メートルにも達した化け物みたいなズッキーニだ…

午前0時なので、誰も読まないであろう、本当は怖い普通の階段の怪談。

大学生の頃に、個人経営のカラオケボックスでアルバイトをしていた。 三階建の小さなビルを利用した店で、一階に受付と厨房、そして団体用の広い個室が一室、二階に中型と小型の個室合わせて八室の、合計九室しかない小規模のカラオケボックスだった。ちなみ…

東京バーチャルリアリティ

自分を変えることができるのは、生活環境の改善でもなければ、周囲の人間の優しや厳しさでもない。雑居ビルの地下に潜む怪しい占い師の一時間一万円の助言でもないし、書店に積み上げられたベストセラーの啓蒙本や、亡霊になって久しい灰色の偉人たちの名言…

ホッピーのナカのDNA

「虫って逃げるじゃない、人間が近付くとさ。 はっ!って顔して。まあ顔はしっかり確認してないからわかんないけど、大概逃げるじゃない。あれは、なんでなのかなあって、この間、サツキ先生と公園で話してたんだ。」 店長と家以外で酒を飲むことは滅多にな…

カナブンは、アマガエルの夢を見るのか。

ある日、自宅の郵便受けを開けると、中に巨大なアシダカグモと、成長途中の淡い緑色をしたカマキリの子供二匹が、一緒に入っていた。 彼らに一緒という意識があったのかどうかは知らないが、郵便受けの中と昆虫たちを人間の世界に例えるならば、三畳か四畳半…

それはきっと、スーパーヒーロー序説。

「太陽が沈む前の空、あれ、もう夜七時なのにねって時に、えっと、少しだけの時間、ピンク色になることがあるでしょ。空の真ん中の半分くらいがさ、ザザーって、青色とか水色からさ、黒にならないで、あれがね、わあピンク色だって時あるの。知らない国のお…

さようなら、K-SWISS。

もう十数年前から、ぼくはベルクロスニーカーを愛用してきた。 特に長年履いてきたのが、アディダスのスタンスミス、カラーは基本的にホワイトが好み。 当時はまだ、靴屋のアディダスコーナーに行けば、必ずベルクロのスタンスミスに出会えた。種類も豊富で…

天皇と、ぼくと、ヒドロゾア。

天皇が生前退位の意向を示されたと、ある新聞社の表玄関に掲示された新聞の一面に書かれているのが、目に止まった。 その数日後、インターネット上の報道記事には、宮内庁などが進めている皇室典範改正を含めた議論は、陛下の早期退位を前提としたものではな…

昆虫ワールド

「時々さ、日々の意味がよくわからなくなるよ。 いま自分がさ、朝、眠いのに起きて会社に行ったり、意味不明なことで嫌な思いしたり、無理に笑顔作らなきゃいけなかったり、お金の心配したりさ。そういうことしながら生きててさ、いったい何か本質的に見つけ…

大仏リアリティ

いつからか知らないが、近所に大仏がある。 子どもの頃は、こんな場所に大仏はなかった気がする。 大仏を見上げていると、向こうから寺の住職が歩いてくるのが見えたので、近付いていって大仏のことを聞いてみる。 「この大仏は、いつからここにあるのでしょ…

誰も読まないであろう、午前0時の投稿。

日本酒を少し飲みながら夕食を進め、その後にバーボンを少し飲む。 気が付けば、もう23時。 眠りにつく前に、誰にも読まれないような時間に、誰にも読まれないような投稿を残す。今さっき我が身に起こったことを、そのままここに記す。 読んだ方がいれば、そ…

蜩サマータイムブルース

ヒグラシの声が、聞こえる。 東京のど真ん中に住んでいた頃には、ヒグラシの鳴き声なんて、ほとんど聞くことはなかった。 ずいぶん昔のことだが、毎年毎年夏休みになると、家族で群馬県の水上温泉に旅行に出掛けて、数日間滞在していたことを、今でも時々思…