ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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小説-短編

ピンク色の穴が空いている、本当はコワい入江の話。

私はあの入江の浜辺に立っている。 時刻は夕暮れ時なのか、空の半分が人の薄皮一枚めくった下にある生々しい肉のようなピンク色をしていて、もう半分は火葬場の煙突から立ちのぼる煙のような斑の灰色をしている。 私の周囲には何かが焼け焦げたような強い匂…

庭の隅に隠された秘密と、本当はコワい岩場の主の話。

前回まで:入江の沖にある、本当はコワい岩礁の話。 窓が開け放たれた縁側の先の庭からは、わずかに潮の香りを含んだ海から吹く強い風が、家の中に向けてゴウゴウと音を立てて流れ込んできていた。 「それからがなあ・・・。」と呟いた祖母の話の続きが一体…

入江の沖にある、本当はコワい岩礁の話。

「なあバアちゃん、あの入江、今でもまだ地元の人は寄り付かんのか?」 「そりゃ寄り付かんだろうなあ。あんなおぞい場所には誰も行きたがらんだろう。」 お盆シーズンの混雑を避けるために少し早めの夏休みを取った私は、墓参りを兼ねて父方の祖母が暮らす…

ダンテの名を持つ喫茶店と、本当はコワい絵画の失われた記憶。

前回まで:知らないはずのメールアドレスに届く、本当はコワい知人のメール。 午前9時ちょうどにイグチさんの自宅前に到着し、玄関に備え付けられたインターフォンのチャイムボタンを押すと、「は〜い!」というイグチさんの奥さんの声が家の中から響いてき…

知らないはずのメールアドレスに届く、本当はコワい知人のメール。

前回まで:部屋の中に何かが祀られている、本当はコワい格安賃貸物件。 部屋の床に寝そべってぼんやりと天井を眺めながら微睡んでいると、シャツの胸ポケットに入れたまま取り出すのを忘れていたスマートフォンが「ブルルッ」と一度だけ大きく体を震わせた。…

部屋の中に何かが祀られている、本当はコワい格安賃貸物件。

「えっ、1ヶ月3500円、嘘でしょ?」 私が妻のモミとの別居を余儀なくされたのは、まだ梅雨もあけ切らない7月はじめのことだった。最終的に離婚という決断をするかしないかを判断する前に、しばらく離れて暮らす時間を持つべきだという提案を出したのはモミで…

神社脇の池にいる、本当はコワい緑色の物理学者。

2017年7月4日午前3時52分、グズグズと爛れたような湿気を帯びた夏の夜はまだ明けていなかった。 昨日、久しぶりに再会した同郷の友人と午後の早い時間から酒を飲みはじめた私は、気が付くと自宅の玄関先に突っ伏していて、妻が私の体を激しく揺さぶっていた…

本当はコワい夏の逢魔時と、背中を曲げるドッペルゲンゲルの話。

ズボンのポケットに入れたスマートフォンを引っ張り出して時間を確認すると、午後6時を少し回ったところだった。この頃随分と日が長くなり、冬場ならとうに闇に包まれている窓の外はまだ水色と薄橙色の光が我が物顔で寝転んでいた。 私が台所で牛スジを煮込…

森にある井戸跡の不気味な噂と、本当はコワい通り魔事件の真相。

私の自宅から最寄りの駅まで最短で向かう道程の途中に、必ず通り抜けなければならない小さな森があった。 かつては土地を治める大名の別荘地だったと言われているその森には、その中心を横切るようにして木々に囲まれたトンネルのような趣の遊歩道があり、 …

アリゲーターガーの湖

まだ日の上がらない早朝に私が目を覚ますとサエはもうベットの横にはおらず、台所の方から朝食の香りが漂ってきていた。 昨夜のアルコールがまだ背中や首元にへばり付いていて、時折私の耳をかじったり肩をギュウと抓ったりしていた。私はそのアルコールをゆ…

謎の幻覚性毒成分を持つ、本当はコワい海洋棲軟体動物の話。

無理矢理に参加させられた会社の飲み会から嘘の都合を理由に早々と退散して、ひとりで時々飲みに行く場末の薄汚れた居酒屋のカウンター席に座って粗悪な日本酒を飲んでいると、席をふたつ挟んで隣に居合わせた20代くらいに見える若い女性から声を掛けられた…

叫び声を聞くと死ぬコワい生き茄子と、世界から脱出するための邪悪な穴の話。

前回までの物語 第1話:封鎖された廃墟公園のコワい噂と、悲鳴を上げる奇妙な薬草の話。 第2話:本当は怖い謎のゲーム『ガフゴーラ』と、懐かしのゲーム機“ストレンジコンピュータ”の話。 あちこち旅をしてまわっても、 自分から逃げることはできない。 - ア…

本当は怖い謎のゲーム『ガフゴーラ』と、懐かしのゲーム機“ストレンジコンピュータ”の話。

前回までの物語 封鎖された廃墟公園のコワい噂と、悲鳴を上げる奇妙な薬草の話。 ちょうど朝が、その日がどんな一日になるかを示すように、少年時代はその人がどんな人間に育ちゆくかを示す。 - ジョン・ミルトン - パラダイス・ロスト トオルがマンドラゴラ…

封鎖された廃墟公園のコワい噂と、悲鳴を上げる奇妙な薬草の話。

彼女はしかつめらしく魔法書をひらくと、生きた蕪みたいな子どもを大きく立派に育てるためにはどうしたらよいかを、もう一度そこに確認しようとした。 - アヒム・フォン・アルニム『エジプトのイザベラ』 - 荒れ果てた場所 今年で小学六年生になる幼馴染みの…

部屋が異常に寒い時に確認すべき、風呂場の地下にあるコワい空洞の話。

近所の精肉店で牛の生レバーを買い終えて家に帰宅すると、やはり部屋の中がやけに寒かった。 もう夏も間近だというのに家の中が異常に寒くないかと、ことさらに妻が強く訴えだしたのは、今朝のことだ。 部屋は集合住宅の一階にある鉄骨コンクリート製の築40…

黒い給水塔

窓の外に給水塔が見えた。集合住宅の屋上にそびえ立つ給水塔が、日が暮れかけた時間に黒い鎧をまとった騎士の如き姿をこちらに向けていた。 この部屋で暮らしはじめて、あの黒々とした給水塔に気付いたことがあっただろうか。生き急ぐ柿の木はあった。遠くに…

第4話「耳鳴り」- 昨日の神話

ちょうど一ヶ月前の午後四時頃だったと記憶している。居間の畳に寝転んで浅い眠りに落ちていた私の耳の中に何かが入り込んだようだった。あの時、夢と現を行き来している私の右耳の奥に羽音のようなものが響き渡り、その後すぐに僅かな痛みが生じた。その音…

第3話「悪魔」- 昨日の神話

友人の三浦から雨の降る土曜日の午前中に電話があり、これから池袋に靴を買いに行くので付き合ってくれないかと言われた。その日は特に用事はなかったが、朝から強い雨が降っていたので外出をする気分ではなかった。朝6時に目を覚まし、トースト1枚と山盛り…

第2話「テレビ」- 昨日の神話

東北で大きな地震があった頃、ぼくは東京のど真ん中の超高層ビルの中のオフィスでデザインの仕事をしていた。 あの頃の日々は表面的あるいは物質的には充実していたように思うが、実際のところ精神面では多様なストレスに塗れていて、仕事の内容に関しても得…

第1話「鳩時計」- 昨日の神話

全国にフランチャイズ展開する街でよく見掛ける喫茶店でアイスコーヒーをすすりながら、その人は唐突に時計の話をはじめた。 世の中にはたくさんの時計がある。そのすべての時計の役割というのは、基本的に言えば“時を刻むこと”だということはおそらく変わら…

バジリスク

Thine eyes, sweet lady, have infected mine. - William Shakespeare - 月曜日の朝、関節に走る激痛で目を覚ました私は、39度の熱を出していた。妻の運転する車で近所の内科に行き診察を受けると、インフルエンザだと診断され即効性のあるという吸引型の薬…

あなたの街にもあるかもしれない、黒い魚が建てた本当はコワい教会の話。

「1531年、エルパッハ近くの北海でひとりのメーアマンが捕らえられた。その男はローマ教会の司教のような姿をしていた。」 - ハインリッヒ・ハイネ - 妻と激しい喧嘩をした土曜日が明けて、ソファーで一夜を過ごした私が目を覚ましたのはもう正午をまわった…

雨と花の苦痛

恐怖や不安は唐突に心に芽を出し、凄まじいスピードで成長して、花を咲かせる。 些細な日常には恐怖や不安の種が、空中に舞う禍々しいダニのように溢れていて、なんてことのない微塵な切っ掛けで心の隙間に入り込んで、そのどこかにしがみ付く。 恐怖や不安…

空間の温度変化で、そこに何かがいることを知る。

風呂場から聞こえてきた奇妙な音の正体を確かめるためにビデオカメラを持って風呂場に向かうと、そこには寝室から消えたクマのぬいぐるみが横たわっていた。 関連動画:風呂場から聞こえる不可思議な音が、本当は恐いヤミゴラの入り口な可能性。 厳密に言え…

風呂場から聞こえる不可思議な音が、本当は恐いヤミゴラの入り口な可能性。

2016年11月2日、現在は午前中だが、居間での何かが焼けるような臭いが今日は漂っていない。けれど先ほどから、風呂場の方で何かバチバチという壁がきしむような音が何度か響いているのが耳に届いた。冬場の冷え切った風呂場の壁にシャワーで熱湯をかけると、…

クローゼットにはヒトオトシサマがいる、本当は恐い忘れられたフォークロア。

「ビデオカメラが居間のテーブルに置いてあるけど、まさか本当に撮影したの?」 「いや、まあ、ちょっと試しに・・・、昼間に原稿を届けにいったから、その時に録画にして、小一時間ほどだけね、きみへの話のネタにと思ってさ・・・。」 「へ〜、で、何か映…

パラノーマルなニオイの謎と、本当は恐いパラノイア臭の関係性。

数日前から部屋の中におかしな臭いが漂っていることに気が付く。 午前中は田畑などで野焼きをしている際のような何かが焼ける臭いがし、午後になると次第に魚の腐ったような臭いに変わり、さらには夜になると煙草の煙のような臭いが部屋の中を漂っている。 …

本当は恐い牛蛙の都市伝説と、古代の伝説を狩る者。

夏が終わった頃からだと記憶している。 家の台所に面した窓の外から、牛蛙の鳴くような声が毎夜聞こえてくる。 時間にすると大抵は真夜中の十二時を過ぎた頃から、おそらくは明け方までのずいぶん長い時間、「モーモー」だか「ウォーウォー」だかいう低い声…

10月31日のハロウィンに、私がひとりぽっちにならない理由。

「ねえパパ、今日ね、学校休んでもいい?」 「えっ、どうして、具合でも悪いの?」 「ちがうよ、だって、だってパパね、今日何の日か知ってる?」 「今日は、ハロウィンだね・・・。」 妻のミキが死んだのは、ちょうど二年前の10月31日、ハロウィンの日の夜…

それではみなさん、おやすみなさい。

時々思い出す情景がある。 エンターテイメント系のインターネット・ポータルを運営する会社に勤めていた頃のこと、毎日毎日仕事が忙し過ぎて、気が付けばいつも終電がなくなる時間、もう家には帰れないからと、仲のよい会社の同僚とその時間から毎晩のように…