本当は怖い謎のゲーム『ガフゴーラ』と、懐かしのゲーム機“ストレンジコンピュータ”の話。
前回までの物語
封鎖された廃墟公園のコワい噂と、悲鳴を上げる奇妙な薬草の話。
ちょうど朝が、その日がどんな一日になるかを示すように、少年時代はその人がどんな人間に育ちゆくかを示す。
- ジョン・ミルトン -
パラダイス・ロスト
トオルがマンドラゴラのことを知ったのは、彼の父が夜な夜な家でよくプレイしているゲームが切っ掛けになっていた。
そのゲームとは、俗に団塊ジュニアと呼ばれる世代前後の大人たちの間でここ数年密かな話題を呼んでいる『ガフゴーラ』というタイトルのビデオゲームソフトだった。
これはパラダイス・ロストと名乗る正体不明のクリエイターによって制作されたと言われるロールプレイングゲームだったのだが、そのゲームソフトはかつて主流だったロムカセット仕様になっていて、ゲームをプレイするには彼ら大人たちがビデオゲームに慣れ親しんだ時代の8ビットCPUを搭載した大流行のハードウェア、一般的には略してストコンと呼ばれていた「ストレンジコンピュータ」を必要とした。当時は壮絶な一大ブームを巻き起こしたストコンだったが、現在製造元の「神農堂」は競合他社との争いに敗れた後に経営難に陥り消滅してしまい、さらにもうずいぶん前に、次々と登場する最新のゲーム機に遥かなる静寂に追いやられたストコン自体の製造は中止されていたため現在ではストコンを改めて入手することは非常に困難になっていた。
そしてガフゴーラ自体も、一般的な小売店やネットショップでは一切扱われていないアンダーグランド的なもので、基本的には入手方法さえも大いに謎とされてた。その秘密めいた存在が一部で注目を浴びインターネット上でも様々な情報が飛び交っていたのだが、幸運にもソフトを入手してゲームをプレイした人々の間では、ゲーム内容の極めて高い不条理性や難解度から、政府転覆を目論むレジスタンス的組織の制作した暗号なのではないのかとか、何らかの新興宗教団体によるプロパガンダ的作品なのではないのかという噂も囁かれていた。制作者だと言われているパラダイス・ロストというクリエイターの存在ですら、あくまでそんな噂の中のひとつでしかないという有様だった。
インターネット上に情報を書き込んでいるごく少数のソフト所有者の話によれば、ゲームソフトのパッケージ自体は何も書かれていない正立方体の真っ白い箱で、その中には緩衝材としてなのかどうかは不明だが奇妙な香りのする干し草のようなものがびっしりと敷き詰められていて、その中央にロムカセット自体が埋もれているということだった。ただ中に入っているのはやはりタイトルも何も書かれていない真っ白いロムカセットだけで、マニュアルの類は一切付属していないのだが、ロムカセットと同じ大きさをした注意書きのような赤い紙切れが一枚だけ封入されていて、そこには購入者への短い挨拶と、不可思議なメッセージが書かれているという話だった。
この度は『ガフゴーラ』をご購入いただきまして誠にありがとうございます。これであなたも晴れて楽園を追放された堕天使の仲間入りです。改めまして、こちらの世界へようこそ。
注意事項:本商品の購入方法、商品金額、またゲームの内容に関しましては一切口外なさらないようお願い申し上げます。もし万が一にでも口外なさりました場合には、当方から使いの者を出させていただきますので、その場合の生命の保証は一切致しかねます旨、ご了承下さいませ。
To Be Continued...
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