ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

follow us in feedly

近未来的世界を舞台に描くポーランドの“スラヴ神話”、トメック・バギンスキ監督の『LEGENDY POLSKIE』。

トメック・バギンスキ(Tomasz Bagiński)という映像作家をご存知だろうか?

 

彼はポーランド出身の映像クリエイターで、他にもイラストレーター、アニメーター、ディレクターなど様々な顔を持つアーティストとして活動しており、またポーランドの映像制作会社プラタイジ・イメージ(Platige Image)社のクリエイティブ・ディレクターとしても、数多くの優れた映像作品を生み出している人物である。

 

彼のキャリアは1998年に制作した『Rain』という短編のCG作品からはじまっていて、その後も主にCG作品に特化しての映像制作を続けているのだが、2002年のSIGGRAPH(シーグラフ)では監督を務めた『The Cathedral』(Katedra)という作品で最優秀短編アニメーション賞を受賞しており、またこの作品は同年の第75回アカデミー賞短編アニメーション賞にもノミネートされている。ちなみにこの『The Cathedral』は、ポーランドのSF作家ヤチェク・ドゥカイ(Jacek Dukaj)の小説を元に制作されたSF作品で、タイトルの“Cathedral”、ポーランド語では“Katedra”だが、これは「大聖堂」という意味にあたる。

 

まずはメインディッシュ並の重厚な前菜として以下に本編を取り上げるので、興味のある方はぜひご覧いただきたい。

 

 

余談だが、前述のSIGGRAPH(Special Interest Group on Computer GRAPHics)とはアメリカコンピュータ学会における分科会のことで、また同分科会が主催する“世界最大かつ最高のCGの祭典”と言われる国際会議あるいは展示会の通称ともなっている。そしてその一部として、ゲームや映画におけるCG映像のコンクールという側面も持っているのである。

 

さてこのトメック・バギンスキは、商業ベースのTVやゲームにおけるティザーやプロモーション映像なども数多く手掛けているため、知らず知らずの内に彼の作品を目にしている方も多いのではないかと思う。

 

例えば、近未来のオープンワールドRPGとして大いに期待されているCD Projekt REDの最新作『Cyberpunk 2077』(サイバーパンク2077)のティザーでは、英国ロンドンを拠点に活動するArchiveの“Bullets”を選曲した、非常に洗練されたクールな作品を創り上げている。

 

 

また同じく、CD Projekt REDのファンタジー・アクションRPG『The Witcher』シリーズの第二弾、『The Witcher 2: Assassins of Kings』でも、実に見事な表現でまさに息を呑む映像を紡ぎ出している。

 

 

 

というわけで、この他にも彼を語る上で取り上げたい素晴らしい作品は山ほどあってさ、特に短編のアニメーション作品に関しては必見のものが多いのだが、そこはグッと我慢して本題に移ろう。

 

さて、今回メインで取り上げるのは、彼が監督を務める『Legendy polskie』というシリーズ作品である。

 

これは、ポーランドの大手オークションサイト“アレグロ”(Allegro)の提供により、前述のプラタイジ・イメージが製作した短編シリーズであり、タイトルは“ポーランドの伝説”という意味を表している。そしてその物語はタイトルの通り、ポーランドで語り継がれているスラヴ民族の神話や伝承をベースとしているのだが、ファンタジー作品かと思いきや、実はSF作品に仕上げられている。つまり、ポーランドの民話や伝説の世界を、近未来的な解釈として描き出しているというユニークな作品になっているのである。

 

というわけで、そのシリーズの中から『SMOK』という作品を取り上げたい。

 

作品を観ていただく前に少しだけ説明を加えると、本作品はおそらくポーランドに言い伝わる“ヴァヴェルの竜”(英語: Wawel Dragon、ポーランド語: Smok Wawelski)という有名な伝承に基づいた物語になっている。その竜の住処が当時ポーランドの首都であったクラクフにあるヴァヴェルの丘の梺の洞窟だったため、“ヴァヴェルの丘の竜”とも呼ばれている。そしてまあ様々な竜の伝承にありがちな話だが、この竜は特に若い女性を食べることに興じていて、人々は定期的に竜の洞窟の前に少女を生贄として捧げることで、わずかの間だけ竜を鎮めることができたのだが...という物語である。

 

f:id:geppakumujina:20170315123036j:plain

image source : Legendy Polskie. Film SMOK. Allegro

 

本作品はこれを、近未来的な世界観で描き出している。

 

興味を持った方はぜひ、ご覧いただきたい。

 

言語はもちろんポーランド語だけれど、英語、チェコ語、ロシア語の字幕は表示可能になっている。日本語は残念ながらない。でも言葉がわからなくてもたぶん楽しめると思う。優れた映像作品というのは、言葉には左右されないのだよ。ちなみに本作品を観て気に入った方は、公式サイトの「http://legendy.allegro.pl/」を訪れてみてね。

 

 

 

 

とっておきのポーランド 世界遺産と小さな村、古城ホテル (地球の歩き方GEM STONE)

とっておきのポーランド 世界遺産と小さな村、古城ホテル (地球の歩き方GEM STONE)

 
とっておきのポーランド 増補改訂版 (地球の歩き方GEM STONE)

とっておきのポーランド 増補改訂版 (地球の歩き方GEM STONE)

 

 

映画『エイリアン』シリーズで一番好きなのはどれかなあと、ふと考えながら一日がはじまる。

映画これが“恐怖”である、アイルランドの片田舎で紡がれる魅惑の短編恐怖映画。

映画ピエロなんて怖くない、“コルロフォビア”を克服する恐怖のクラウン短編作品セレクション。

映画“Acts Out His Film Career w”にサミュエル・L・ジャクソン登場、ジェームズ・コーデンの『The Late Late Show with James Corden』。

映画“コヴェナント号”に乗っているもうひとりのマイケル・ファスベンダーの名前はウォルター、『エイリアン: コヴェナント』におけるアンドロイド問題。

映画ソーシャルメディアで自分の犯罪行為を放送する孤独な女性、ロバート・モックラー監督の『LIKE ME』。

映画シャーリーズ・セロンが戦ってキスして殺す、超クールなスパイ映画『Atomic Blonde』(アトミック・ブロンド)。

 

 

月白貉