彼方より、日記。
ぼくは、おそらくだが、戻る場所を失ってしまった。
誰も彼もが、戻る場所を持っているわけじゃないことは知っている。ただ、多くの誰かには戻る場所があるはずさ。戻る場所があるってことは、帰る場所があるってことは、たぶん、たぶんそれは大きな救いなんだろう。
残念ながら今のぼくには、その救いはちょっと薄いのかな。
戻る場所はまだあるけれど、そこにはもう、戻りたくない。
だから結局、とどのつまり、戻る場所なんてもう、ないのさ。
顔を両手で覆い、大きく息を吸うと、陰鬱な空気の吸引音が辺りに響く。いや、それは音ではなく、ぼくの内に直接響いてくる何かなのかもしれない。
孤独って、例えれば自分が囚人で同時に自分が看守の独房で、そこに入り込むと世界はもうそこだけになる。外のことなんかどうでもいい。それはそれで、もしそれに耐えうるなら、それでもいい。ぼくがそれに耐えうるのか否かは、自分じゃわかんないけれどね。
いまは、誰かと酒を飲みながら話がしたい。
わがままなぼくの提示する条件は、純粋に気の合う誰かと、果てしない話をしながら、美味しいものを食べて、酒を飲んで、最後にはアルコールに押しつぶされて、突っ伏して眠りたい。
遠い昔には、そんな風なこと、あえて望まなくても、すぐそこの日常だった。でもいまは、なんだかそれはいつかみた映画に憧れるみたいな、必死で手を伸ばすようなものに感じられる。
きょうはちょっとましな日記かな、つねに真剣に日記を書こうと藻掻いているが、それがもし自分の思い通りになるなら、きっとこんな辺鄙な荒野に我が言葉を垂れ流す意味なんて、おおよそないんだよ。
いつか誰かが、この岩に記した言葉を、読んでくれれば。
2019.09.01 J.B.M