ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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みずうみ、日記

365日、そしてその次の150日くらい、湖ばかり見ていた。

 

湖は、透き通るような青だったり、沈みゆく緑だったり、焼けるようなオレンジだったり、陰鬱な灰色だったり、漆黒たる深い闇だったり。

 

結局あれは、水に映えた空の色じゃなくて、ぼくから滲み出した何かの色だったんだと、やっと今にして理解する。ただ、そういうことが、もし今後も続いたとして、再び新たに理解するのはずっとずっと後のことだ。たとえ今理解しかけていることとまったく同じ事柄でも、きっとぼくは今は理解なんてできやしない。

 

湖を通りかかる度に、馴染みの騎士と従者に出会った。

 

サークルキャッスルとスキップジャック

 

大した会話もかわさないまま、もうずいぶん長い間、毎日毎日顔を合わせては、天気の話をする。

 

今日は爽やかだとか、今日は不快だとか、太陽が照りつけるとか、嵐が来るとか。

 

シャイなサークルキャッスルと、女好きなスキップジャック

 

ぼくは彼らの名前を知っているが、彼らはぼくの名前を知らない。聞かれることもないし、名乗ることもしない。

 

あのほんの一瞬の不思議な時間は、一体なんなのだろうと、彼らに会う瞬間まではいつもいつも毎日考えている。でも二人に出会うと突然そこは、まったく違う世界になる。

 

「おはよう、きょうは爽やかだ。」

 

サークルキャッスルはそう言い、スキップジャックは目を丸くする。

 

そしてぼくは、その日の中で唯一自然に微笑み、スキップジャックと握手をして、生きることの意味を、少し考える。

 

自分が誰かを救っていることを、自分が知る必要はまったくない。彼らがぼくを救ってくれていることを、たぶん彼らはしらない。

 

それでいいからだ。

 

だからちゃんと、生きていける。

 

キーボードから手を離したはずみで、グラスを倒してソーダを机に撒き散らした。

 

それに少し笑えた。一週間前の自分は、そのことに笑えたかな。

 

サークルキャッスルは言う。

 

「今日は爽やかでいい。」

 

スキップジャックは何も言わずに、ぼくを一瞬だけ見つめる。

 

そろそろ夜が始まり、ぼくはそのうち眠るだろうけれど、

 

誰かがぼくに、その夢の中のぼくに会いに来るなら、大歓迎さ。

 

おやすみ。

 

そして、おやすみ。