みずうみ、日記
365日、そしてその次の150日くらい、湖ばかり見ていた。
湖は、透き通るような青だったり、沈みゆく緑だったり、焼けるようなオレンジだったり、陰鬱な灰色だったり、漆黒たる深い闇だったり。
結局あれは、水に映えた空の色じゃなくて、ぼくから滲み出した何かの色だったんだと、やっと今にして理解する。ただ、そういうことが、もし今後も続いたとして、再び新たに理解するのはずっとずっと後のことだ。たとえ今理解しかけていることとまったく同じ事柄でも、きっとぼくは今は理解なんてできやしない。
湖を通りかかる度に、馴染みの騎士と従者に出会った。
サークルキャッスルとスキップジャック。
大した会話もかわさないまま、もうずいぶん長い間、毎日毎日顔を合わせては、天気の話をする。
今日は爽やかだとか、今日は不快だとか、太陽が照りつけるとか、嵐が来るとか。
シャイなサークルキャッスルと、女好きなスキップジャック。
ぼくは彼らの名前を知っているが、彼らはぼくの名前を知らない。聞かれることもないし、名乗ることもしない。
あのほんの一瞬の不思議な時間は、一体なんなのだろうと、彼らに会う瞬間まではいつもいつも毎日考えている。でも二人に出会うと突然そこは、まったく違う世界になる。
「おはよう、きょうは爽やかだ。」
サークルキャッスルはそう言い、スキップジャックは目を丸くする。
そしてぼくは、その日の中で唯一自然に微笑み、スキップジャックと握手をして、生きることの意味を、少し考える。
自分が誰かを救っていることを、自分が知る必要はまったくない。彼らがぼくを救ってくれていることを、たぶん彼らはしらない。
それでいいからだ。
だからちゃんと、生きていける。
キーボードから手を離したはずみで、グラスを倒してソーダを机に撒き散らした。
それに少し笑えた。一週間前の自分は、そのことに笑えたかな。
サークルキャッスルは言う。
「今日は爽やかでいい。」
スキップジャックは何も言わずに、ぼくを一瞬だけ見つめる。
そろそろ夜が始まり、ぼくはそのうち眠るだろうけれど、
誰かがぼくに、その夢の中のぼくに会いに来るなら、大歓迎さ。
おやすみ。
そして、おやすみ。