ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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螺旋の先にある空間、消されつつある黒猿陰謀日記。

三日経っても覚えている夢を、書き綴ろうと思って、いま筆を動かしている。

 

記憶は徐々に消え去ってゆきつつあるので、ディテールは荒いし、唐突に終わるかも知れない。

 

どこかの土地、宗教施設だったらしい遺構みたいな場所、いちおう観光地のようだが、長らく寂れてしまっておそらくほとんど人なんて訪れていない。たぶん神社や仏閣ではなくて、ぼくの知っている宗教のものではない何かの跡地。

 

森に囲まれた空き地みたいな場所には、地上にはほとんど建造物はなく、地下に続く螺旋状の穴が空いている。穴と言ってもかなり大きなもので、入り口の大きさはおそらく直径三メートル以上はある。地上にも少し、盛り上がった、古墳のような小さな土の山が出来ている。その盛り土には草が生えていない。

 

かつては観光地として、入場料を払ってその地下に入れるようだった。

 

穴から少し離れた場所に入場料を払う受付みたいな小屋があって、料金表とか、注意書きとか、そんなものを横目に見た覚えがある。

 

地下へと続く螺旋状の穴の入り口には、「立入禁止」というボロボロになった立て札が置かれていて、黄色と黒が交差する古びたロープがうなだれるように張られていた。時々そのロープが風に揺られていた。風の強い日だったのかも知れない。

 

「怖いよ、怖いから、私は嫌だよ、やめよう・・・、」

 

その場には数人の仲間らしき人物がいた。よく思い出せないけれど、ぼくの他に男性がひとりと女性が二人、誰一人として現実に知っている顔はいなかったと思う。その中のひとりの女性が、夢の中ではおそらくぼくとかなり親しい関係らしい彼女が、その穴に入ることをずっと拒否し続けていた。

 

「気持ち悪いよ、こんなところ・・・、入っちゃだめなところだよ・・・。」

 

でも、ぼくたちはその穴に足を踏み入れる。

 

穴は奥に進むほど広大な空間になっていった。その壁面が、途中から土ではなく、人工的に加工された白色の壁のようなものに変化していった。材質はよくわからない。もしかしたらその土の下がなにかの鉱物の岩盤になっていて、そこに穴が掘られていたのかも知れない。

 

真っ白な洞窟は、ある場所から他方に道が分岐しだして、巨大な骨の組織のようだった。そして、そのあたりからポツポツと、壁の随所に奇妙な壁画が描かれだした。

 

そして壁画の描かれた周囲の壁には、半透明の黄色い粘液のような、ドロドロとした液体が付着しているようなものが見えはじめた。それは、ついさっきそこに撒かれた、あるいは付着した液体かのように、やけに生々しく、すぐにでも下に垂れ下がってくるような状態に見えた。

 

ぼくと親しい関係であろう女性が小さく言葉を放った。

 

「あそこに、あれなに、あれ、何かいるよ・・・」

 

彼女の名前はなんだったろう、聞いたような気もするし、名前を呼んだような気もするけれど、わからない、覚えていない。

 

彼女の指差す穴の先に、大きな白い鳥居のようなものが見えた。そしてその下に、無数の人影が、人のような形をしたものが見えた。

 

おそらくは強力な懐中電灯のようなものを、仲間の男性が持っていたのかも知れない。

 

そしてその光が、真っ暗闇の中でその先を照らしていた。

 

前方に、やけに大人数の人影のようなものの影が、揺らめいてた。

 

立入禁止の、寂れた観光地の遺構の奥底にうごめく無数の人のような影、明らかに異常な状態に、ぼくたち四人は狂ったようにもと来た螺旋状の穴を走りかえる。

 

女性二人は、恐怖に声なく叫んでいたと思う。

 

背後をふりかって走り出す直前、人影の奥にぼくは禍々しい祭壇のようなものを見た記憶がある。

 

たぶんその夢には続きがあって、その後、いや、よく覚えてない。

 

もっと恐ろしいことがあったように思う。

 

夢から覚めてしばらく経って、あの奥になぜ進まなかったのかと、少しだけ後悔した。

 

あれは夢じゃなくて、何かの記憶だという事柄に、しびれた手で二票を投ずる。