ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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これがホラー映画の“マナー”『NIGHT OF THE SLASHER』、スラッシャーの“決まりごと”よ永遠に。

ホラー映画には大抵、“決まりごと”が存在する、ルールとかマナーとも言えるものかもしれないけれど。

 

まあここで言う決まりごととは特にアメリカの70年代から80年代あたりにかけてのホラー映画でのことであり、特にスプラッターとかスラッシャーにおける場合が主なので、現在でのホラー作品全般に当てはまるかどうかはちょっと定かではない。だって時代によってさ、ホラー映画だって四季の如き移ろいをみせるわけなので、普遍的な決まりごととは言えないかもしれないし、「ホラー映画決まりごと協会」なる組織がアメリカあたりに存在して、厳密な審査の元に、規定の決まりごとが含まれていないホラー映画は上映が禁止されているというシステムは、たぶんないと思うからね。さらにはその往年のホラー映画の決まりごとをあえて覆したりしている作品だって昨今はたくさんあるだろうから。

 

また反対に、その年代の決まりごとに則って、いわゆるリバイバル的な純ホラーなるものを好んで製作している人々もたくさんいるはずではあるが。

 

まあホラー映画の決まりごとを作品のテーマとして掲げた秀作に、ウェス・クレイヴン(Wes Craven)の『スクリーム』(Scream)なんかがあるね。劇中では映画マニアの若者たちがスプラッター映画の決まりごとのパターンを話題に上げつつ、それに擬えたり裏切られたりして、殺されてゆくという物語だった。

 

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ではどんな決まりごとがあるんだよってことだけれど、ちなみにこの後紹介する短編作品の導入としてこれを書いているので、箇条書きにして細かく説明したりすることは、今回はしないのであしからず。

 

で、例えば、劇中で殺人鬼に必ず殺されるタイプの登場人物ってものがある。序盤からイチャついていてすぐセックスしちゃうカップルとか、嫌われ者の偉そうなやつとか、殺人鬼の存在を信じていない人とか、仲間を見捨ててひとりだけ逃げちゃうとか、外の様子を見に行ってくるよ!という熱血漢とか、そういう人々は大抵は殺される運命にある。ただ、物語の序盤で脇役感満載のメンバーってのがいて、手だれてくるとお決まり云々ではなくその時点で誰が死ぬのかがわかるようになってくるってのもある。だから近年の作品なんか観ていると、「あいつ生き残ってるよ!」とか反対に「死なないと思ってたのに・・・」っていう描き方をされてることもあるのは、決まりごと返しだと思う。

 

他にも、助けを求めた警察が大抵は役に立たないとか、電話がかからない、もしくは電話線を切られるとか、逃げようとして車に乗り込むけれどもエンジンがかからない、あるいは車のキーを暗闇に落として見つからないとか、車のキーが付いているキーチェーンに山ほどキーが付いていてどれかわからないとか、まあその場合に大抵は車のフロントガラスに血だらけの仲間の死体が落ちてくるとか、そういうのもあるね。

 

あとは、セクシーな決まりごとだと、女の子が無駄に服を脱ぐシーンがあって誰かが窓の外から覗いているようなアングルだとか、まあその場合には真っ裸にはならなくてジーンズとシャツだけ脱いだ半裸の下着姿で窓の方に振り返って「誰かいるの?」となったりする。全裸になってしまうとストレートすぎてセクシーさが台無しという“ちょっとだけよ”的なものが多い、あくまで半裸になるというケース。服を脱ぐというと、シャワーを浴びているけれどもやはり見えるのはシャワーカーテン越しだとか、全裸になってプールや湖で泳いだりすることもあるけれど水の屈折でよく見えないとか、やはり直接的な裸体というのは少ない気がする。

 

さてもう一つは、殺人鬼あるいはクリーチャー側のお決まり事だけれど、すごくゆっくり歩いて追ってくるくせに、やけに移動が速い、つまり異常な機動力を持っている。さらには突然視界から消えたと思うと横にいたり背後に現れたりと、半ば瞬間移動の特殊能力を持つ能力者バリの動きを見せる。そして運良く攻撃がヒットしても、一度や二度ナイフで刺されたくらいでは決して死なないし痛がったりしない。実際に無痛症というレアな病気があるらしいけれど、刺されても無反応な場合が多い。さらにクライマックスで主人公がとどめを刺したと思っても、大抵は死んでいないし、最終的に血痕を残して姿を消す場合もある。これは続編があるということをほのめかすものかもしれない。

 

まあこの他にもホラー映画の決まりごとは細かく言えば山ほどあるし、昨今ではそのバリエーションも豊富で、さらには前述でも少し触れた“決まりごと返し”なるものも生まれてきているので、学術的な論文でも書けるくらいのレベルで、ホラー映画というのは決まりごとづくしなのである。

 

というわけで、路肩での雑談の如きラフさでホラー映画における決まりごとの代表的なものを挙げてみたのだが、これを踏まえて、今回取り上げる短編作品をご紹介したい。

 

シャント・ハマシアン(Shant Hamassian)監督による2015年製作の短編作品『Night of the Slasher』である。

 

Night of the Slasher

image source : night-of-the-slasher

 

このタイトルはかの巨大メガネ監督のゾンビ映画からのものかもしれないとちょっと思ってしまうけれど、それはさておき、この作品が取り上げたいがために長々とした雑談を繰り広げたというわけ。その理由は、本編をご覧になればご理解いただけることと思う。

 

あらすじなどの説明は一切抜きにするので、もし興味があればぜひどうぞ。ちなみにこの作品、ジョン・カーペンターの『ハロウィン』(Halloween)を鑑賞したことがないと、おもしろさは半減どころか一気に下がるので念のため。だからもし観ていないなら、観てからをオススメしたい。

 

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ただまあ、前述のホラー映画の決まりごとという部分だけでも、多少は楽しめるかもしれないけれどね。

 

では、どうぞ。

 

 

 

 

映画地獄と最悪がそこにある、ジョン・カーペンターを彷彿とさせる新たな恐怖神話『THE VOID』。

映画プルイット・テイラー・ヴィンス怪演、悪魔に取り憑かれた画家を描く『THE DEVIL'S CANDY』。

映画人工妊娠中絶をテーマに扱ったホラー映画『BLESSED ARE THE CHILDREN』、それは一体誰の復讐なのか。

ミュージックビデオ狂気のサーカス逆再生、LENINGRADのミュージック・ビデオ『KOLSHIK』。

映画地下道にある異界の入口を描いた『ПЕРЕХОД - THE CROSSING』、新宿にもこんな場所があるかもしれない。

映画カニバルでディストピアなラブストーリー、アナ・リリー・アミールポアー監督の『THE BAD BATCH』。

映画これが解剖学的に正しい『スパイダーマン』、だって蜘蛛だもの。

 

 

月白貉