ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

follow us in feedly

ヒメコナカブリツルタケ(Amanita farinosa)- 松江城マッシュルームマップ -

日本では小さいものに対して「姫(ヒメ)」という接頭語を付ける場合がある。

 

例えば、ヒメリンゴだったりヒメユリだったりヒメキュウリだったり、あとはなんだろうか、よくよく考えるとあまり思い出せないのは、普段あまり使わないからであろうか。

 

辞書によれば、姫という接頭語には小さいものというだけではなく、正確には小さくて可愛らしいものという意味合いで用いられると書かれている。

 

つまりただ小さいだけではなく、さらに可愛らしくなければ姫という接頭語を付けるには値しないということになる。ちなみにきのこの中にも和名に姫という文字を含むものが、ぼくが知っているだけでも幾つか存在する。

 

というわけで、今回のハンティングきのこは、そんな姫きのこの中のひとつ「ヒメコナカブリツルタケ」である。

 

ヒメコナカブリツルタケ(Amanita farinosa)- 松江城マッシュルームマップ -

 

テングタケテングタケ属のきのこで、学名を「Amanita farinosa」、漢字で書くと「姫粉被鶴茸」である。

 

夏から秋にかけてシイとカシの混合樹林などに発生するきのこで、傘の径は大きくてもだいたい5cmほどとテングタケ科にしては非常に小型である。また淡い灰色の傘は同色の粉で覆われている。和名からもわかる通り、小さくて粉を被っているのでまさにそのまま姫粉被なのである。

 

灰色で小型の傘に粉を被ったその姿は実に愛らしく、なにやら小動物のような趣を持っている。写真の個体は雨上がり後にすぐ頭を出したらしく小さな水滴も被っていて、写真ではややわかりにくいかもしれないが、粉具合と水滴の玉が相俟ってとても美しい景観となっている。特に中央の幼菌などは、もはや雨を受けて丸まった小動物にしか見えない。写真の右上に映っている茶色い物体はおかしな色をしたダンゴムシなので、大きさを比較してもらえば如何に小さなテングタケ科かおわかりいただけると思う。

 

冒頭でもお話したように姫という接頭語にはただ小さいだけではなく、さらに可愛らしいという条件が存在するのだが、このきのこは体もとても小さくて、さらにとてもとても可愛らしいので、接頭語の姫を使うに十分値するきのこということになるであろうと、個人的には接頭語の姫認定納得の一品である。

 

ただ世の中には、小さいと判断される存在は星の数ほどあるだろうが、小さくても可愛らしくないものには本当に姫は使われていないのだろうか。

 

例えば「ヒメイエバエ」という世界的に分布しているハエがいるが、おやおや、姫という接頭語が使われているではないか!

 

ヒメイエバエはイエバエをちょっとスリムにしたくらいのハエであり、ご存知のようにハエは害のある菌を伝播することでも知られる昆虫である。人間目線からすればおそらく一般的には可愛くもなんともないし(まあ可愛いと感じる人もいるだろうが)、さらには小さいと言っても、そもそもハエは皆ある程度小さいので、接頭語の姫認定からは除外されるべきではないだろうか。個人的には完全に姫はアウトだと思う。

 

上記のように、ちょっとつまんだだけでもすぐに姫認定除外の例が出てきてしまうということは、世の中にはおそらくはぼくが知らない、姫ではない姫が多数存在するのではないかと思ってしまう。言葉なんてものは、まあそこそこいい加減なものだから仕方がないのだろうけれど。

 

そんなこんなで、だったら小さくて可愛らしいものに、あるいは小さくもなく可愛らしくもないものにも、もっと姫をつけて呼ぶ運動でも起こして、どんどん接頭語の姫を活用してゆくというのも、あるいは楽しいのではないだろうか。

 

「きょうはちょっとお腹が姫痛くてさあ、仕事休むよ。」とか、「あいつちょ〜姫ウケるよね!」とか、あるいは「今話題の姫ウマな店」とか、効果は未知数であるが、なんとなく生活が楽しくなる気がするのは、果たしてぼくだけであろうか。

 

と言った具合で、今回は姫お開きとさせていただこう。

 

 

 

 

月白貉