ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

follow us in feedly

アシグロホウライタケ(Marasmiellus nigripes)- 松江城マッシュルームマップ

竹取物語の中に「蓬莱の玉の枝」というものが出てくる。

 

竹取物語といえば皆さんご存知、「竹取翁の物語」や「かぐや姫の物語」などと呼ばれることもある、日本で最古と言われる物語である。

 

最古というくらいなので、書かれた時期や作者に関しても不明とされている謎の多い物語である。

 

多くの方がその物語を何かしらの本で読んだことがあるのではなかろうかと思うのだが、簡単にあらすじを言ってしまうと、竹取の翁によって光り輝く竹の中から発見され、その翁夫婦に大切に育てられた少女「かぐや姫」を巡る物語である。成長したかぐや姫は五人の貴公子から求婚を受けることになるのだがそれを断り、さらには帝からお声がかかってもこれに応じず、ある八月の満月の夜に生まれ故郷である「月の都」へと帰ってゆくのである。

 

さて、このかぐや姫が五人の貴公子から求婚された際に、それを断る口実として五人に課す達成不可能な試練がある。

 

「私、いま欲しいものが五つあるの、それを手に入れることが出来たら超ウレシすぎてシビれちゃう、だから私の欲しいものを持ってきてくれた人とだったら、かぐや結婚しちゃうかも、うふ♡」

 

と言って、絶対にこの世では手に入らないであろう架空の宝物を、五人にぞれぞれ言い渡すのである。

 

その中のお宝のひとつが「蓬莱の玉の枝」なのである。

 

というわけで、今回のハンティングきのこは「アシグロホウライタケ」である。

 

アシグロホウライタケ(Marasmiellus nigripes)- 松江城マッシュルームマップ

 

ホウライタケ科シロホウライタケ属のきのこで、学名を「Marasmiellus nigripes」、漢字で書くと「足黒蓬莱茸」である。

 

傘の径は0.3cmから大きくても1.0cmほどの超小型きのこである。このきのこの仲間で容姿が同型の「シロホウライタケ」という種もあるのだが、名前にもあるようにこの種は柄の足元が黒くなっていることを特徴とする。またシロホウライタケに比べるとずいぶん小型なことが判別の基準となるであろう。

 

さすがにここまで小さいものになってくると、ほんとうに匍匐前進でもしながら野山を這いずり回らないとなかなか目には入ってこない。もちろんぼくは匍匐前進をしていると言いたいところであるが、この数ヶ月で心身ともに「きのこ進化」を遂げているため、普通に歩いていても難なく探すことができるのである。

 

さて、そんな超人的な進化を遂げたぼくでさえも、たぶん探すことなど不可能なのが、今回のきのこの名前にも含まれている「蓬莱の玉の枝」である。

 

ちなみに竹取物語の中で、五人の求婚者に課題として出されたお宝はといえば、

 

石作皇子には「仏の御石の鉢」、右大臣阿倍御主人には「火鼠の裘(かわごろも)」、大納言大伴御行には「龍の首の珠」、中納言石上麻呂には「燕の産んだ子安貝」、そして車持皇子には「蓬莱の玉の枝」となっている。

 

「蓬萊」とは、そもそも古代中国で東の海上あるいは海中にあるとされた場所であり、そこには不老不死の仙人が棲むという伝説がある。そしてこの蓬莱には「玉の木」という珍しい木が生えており、根が銀、茎が金、実が真珠で出来ていると言われている。かぐや姫はその木の枝を折って持って来いと言ったのである。

 

その結末は言わずもがなではあるが、もし物語をご存じない方は、近年に高畑勲が監督したアニメーション「かぐや姫の物語」あたりを観ると、お手軽に内容を把握することが出来てオススメだと言えよう。

 

まあそんなこんなで、かぐや姫の課題が「出雲の足黒蓬莱の茸」であったのなら、いまのぼくであれば十分にかぐや姫のハートを射止めるチャンスがあったであろうとだけキザに言い残して、今回はおとなしく月へ帰ることとしよう。

 

 

 

 

 

 

月白貉