オーストラリアには“乙事主(オッコトヌシ)”級の人喰いイノシシがいる!驚異の四足獣ホラー『BOAR』。
かつて山深い場所に住んでいた頃、一度だけ山の中で猪の群れに遭遇したことがある。
藪漕ぎをしないと進めないような道なき道を行軍中、ぼくの視界の少し先に突然無数の猪が姿を現し、ゾッとして失禁しそうになった。今でこそ懐かしがることの出来る楽しい思い出だが、瞬間的には完全に『もののけ姫』における乙事主登場のシーンであり、「鎮西の乙事主だ!」という台詞を口走って然るべき状況だった。あの時は半端ではなく血の気が引いたことをよく覚えている。
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そのあたりには熊も出るという話だった為、あれがもし熊の親子だったらまた趣も違って、片腕を失うような大怪我でも負っていたかもしれないが、後からジモティー老人に聞いたところによれば、猪でも十分危ねえから気を付けろよ!ということだった。
猪とはご存知のように、簡単に言えば現在のメジャー家畜である豚の野生版であり、英語ではボア(Boar)とかワイルド・ボア(Wild Boar)などと呼び、学名は“Sus scrofa”という。
もともとはアジアやヨーロッパなどを中心に生息していたようだが、人間によってアメリカ大陸やオーストラリアなどにも持ち込まれ、その生息域を爆発的に広げたと言われている。現在の日本に生息する猪には、前述の乙事主のような巨大なものはいないと見られているが(いるかもしれないけれどね)、世界的に見ると地域によっての個体差がかなりあり、米国では体長約2.8m、体重約470kgもある巨大な個体が確認されている。また中国でも同様に体重300kgを超すものが棲息しているという。米国にしても中国にしても土地が広大であるため、それに比例した結果なのかもしれない。例えば金魚が水槽の大きさに比例して巨大化するのと同じことであるとも考えられる。
さて、日本における猪の事情に少し触れると、日本人はずいぶんと古くから猪を食用として飼育していたらしく、その歴史は縄文時代にまでさかのぼるという。また大和朝廷には猪を飼養する猪飼部なるものがあり、古くから天皇や貴族が猪の肉を食していたと言われている。さらに下って江戸時代にも、京都では「山鯨」、江戸では「モモンジイ」や「モモンガア」などと呼ばれて盛んに食べられていた。この呼び名に関しては、当時は四足の獣を食べることが一般には忌まれていたため、鯨やモモンガの名があてがわれていたのだということである。
ぼく自身、山間部に暮らしている頃には、ジモティーハンターが狩ってきた野生の猪の肉を何度もご馳走になっているが、今でも猪ではなく“山鯨”という呼び名を使っている。また現在でもあるかどうかは定かではないが、かつてぼくが東京で暮らしていた頃には、浅草に「ももんじや」なる猪料理の店があった。そして、その店の入口の脇には、巨大な猪が逆さに吊り下げられていたと記憶している。
ちなみに食肉としての猪には、日本以外にも様々な逸話があり、例えば三吉朋十の『南洋動物誌』によれば、南米のインディオは部族によっては豚や猪を食べることをひどく嫌っているという。その理由はと言えば、それらの肉を食べると目がどんどん小さくなっていってしまい、終いにはなくなってしまうと言われているからだという。
また台湾の先住民族の中で山地に住む民(日本人によって後に「高砂族」と分類された人々)の猟師たちは、猪の耳を食べると狩りに出た時に猪に足音を聞きつけられると言って決して口にはしなかったという。
猪(イノシシ)は元々、「ウィ(ヰ)」と鳴く“シシ”という言葉に由来する名前だという。シシというのは古くは食用の肉を意味する言葉だったと言われているので、“ウィウィとなく食用肉”という特殊な名前を付けられている。つまり随分古くから、人間たちの食用動物という扱いを受けてきた獣なのだと推測される。
さて、話が相当横道にそれたので、本題に軌道修正してゆこう。
今回取り上げるのは、もちろん猪をテーマにした作品、クリス・サン監督による『Boar』(ボア)というタイトルのオーストラリア映画である。
image source : BOAR
本作品のあらすじであるが、簡単に言うと、オーストラリアには驚異的なサイズの“ボア”がいるから、おめえら気を付けろよ!という物語のようである。
オーストラリアも広大な土地であるから、前述のようにやはり棲息する土地の広さに比例して、体も巨大化するのではないのかと感じる。まあこれはあくまで映画であって、実際に巨大なボアがいるのかどうかは定かではないが・・・。
というわけで、本作品の予告編が公開されているので、猪愛好家の方はぜひご覧いただきたい。ちなみに本作品はオーストラリアで2017年12月に公開を予定しているとのことである。
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