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ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲が自らの感覚で日本を歩きまわって見聞を広めたように、故郷を離れて旅を続けるぼくが、ぼくの感覚でその土地を歩き回って、見たり聞いたり嗅いだり触ったりした、ぼくの見聞録です。

狼男は好きですか?“狼憑き”の歴史から最新インディー狼男映画『BONEHILL ROAD』まで。

西洋には“狼憑き”(Lycanthropy、ライカンスロピー、リカントロピー)という言葉が存在する。

 

響きからすると日本で言うところの“狐憑き”や“犬神憑き”のような憑物として捉えることが出来るが、ある側面では共通点があるもののやや趣を異にしている。

 

狼憑きの特徴を簡潔に述べると、以下のようなものが挙げられる。

 

  • 人間が狼(動物)に変身する
  • 夜間に徘徊する
  • 動物や人間を襲ってその肉を喰らう
  • 再び人間の姿に戻ることが出来る

 

つまりこれは、現代で言うところのいわゆる“狼男”にあたるものである。

 

狼に変身するという概念は随分古くから存在しており、例えばギリシア神話におけるリュカーオーン(Lycaon)の狼変身譚や、詩人のプーブリウス・ウェルギリウス・マーロー(Publius Vergilius Maro)も呪術による狼変身譚について描写しているそうである。

 

またローマの文筆家ペトロニウス(Petronius)による『サテュリコン』(Satyricon)の“トリマルキオの饗宴”の中にも狼憑きの話が登場しており、この話で語られる人狼、つまり狼憑きの特徴を示す基本要素は、後の狼憑きの話のほとんどに登場することになる。その要素とは以下のようなものである。

 

  • 月光の下の変身
  • 変身のために衣服を脱ぐ
  • 変身(人間→狼、狼→人間)の際に放尿あるいは咒いの類をする
  • 狼(動物)の状態で傷を負うと人間に戻っても同箇所に傷を負っている

 

つまりこれらが、狼憑き“あるある”の如きものになったのである。

 

他方では、北欧のサーガにあるバーサーカーあるいはベルセルク(Berserker)と呼ばれる存在も狼憑きの源流のひとつだと考えられている。このベルセルクという言葉は“熊の皮を着る者”という意味であり、この地方の戦士や無法者が自ら屠った熊の毛皮を身に纏った状態あるいはその者のことを指す言葉である。熊の毛皮を身に纏う理由は、まずは保温のためということもあるのだが、その姿の恐ろしさを誇示するためだったと言われている。そしてさらに一歩踏み込むと、熊の毛皮が獣のような残忍性と超自然的な力を付与するものだと考えられていたからである。そして後にこのベルセルクという言葉の意味は拡張し、狂暴な人あるいは自らを野獣であると信じる狂気に取り憑かれた人を示すようになる。

 

さらに中世以降、この狼憑きは魔女と同様にして異端者と関連付けられるようになる。そして魔女がサバトに行くという観念が定着すると、狼憑きもそれに酷似する集会を開くという観念が生み出されることになり、異端審問官たちは狼憑きの状態を説明するために、以下に挙げるような範疇を用意しなければならなくなるのである。

 

  • 狼のように振る舞い家畜に損傷を与える者。狼の姿に変身することはないが、自分では狼の姿になったと信じ込んでおり、同様の幻覚に捕らわれた者には狼の姿に見える。
  • 睡眠中に家畜を襲っている夢を見る者。その間に悪魔が実際に狼を扇動し、見ている夢と同様の狼藉を行う。
  • 自分が狼であり狼藉を働いたと思い込む者。実際には狼に変身した悪魔が行っている。

 

このようにして16世紀後半の異端審問全盛時代には、狼憑きは単なる民間伝承や伝説ではなく、魔女術と同様の神に対する罪であるとして、場合によっては魔女よりもさらに無慈悲に裁かれることがしばしばあったと言われている。

 

だた一方の少数派として、例えばレジナルド・スコットのように、「狼憑きは病気であって変身ではない」と唱える者も存在した。つまり狼のように振る舞ってしまう精神錯乱だということである。同時に彼は魔女についても、まったくの無実か、自分が魔女だと信じ込んでしまった精神病者か、特殊な薬物を扱い幻覚を見ている呪術師か、あるいは魔女のふりをして商売をする詐欺師だという定義付けを行っている。

 

その後、この狼憑きはより合理的な解釈のもと、前述のレジナルド・スコットが主張したように生理現象や精神的問題と関連付けられる様になってゆき、現在では狼(動物)に変身するという妄想あるいは自分が狼(動物)であるという妄想による精神医学上の症候群としても見られているようである。

 

さてこの狼憑き、そして人狼あるいは狼男と言えば、映画のテーマとしても現在までに度々登場しており、その歴史は無声映画の時代にまで遡るのだが、狼男映画を決定的に位置づけたのはご存知、ユニバーサル・ピクチャーズ(Universal Pictures)の製作によるスチュアート・ウォーカー(Stuart Walker)監督の『倫敦の人狼』(Werewolf of London)である。

 

 

それ以前の狼男映画における狼男描写は、人間と狼を別々に画面に登場させて表現するというものだったことに対して、本作品は初めて特殊メイクによる表現を駆使して、半人半狼の狼男を描いている。

 

またその後、1941年のジョージ・ワグナー(George Waggner)監督による『狼男』(The Wolf Man)では、更に精巧な特殊メイクによって狼男が表現されている。

 

 

そしてこのどちらの作品も、狼憑きという“病気”あるいは“呪い”に感染するという筋になっており、後の狼男映画でのセオリーとなる“狼男に噛まれると狼男になる”、“銀製品が弱点”、“満月の夜に狼に変身する”などという一連の要素が盛り込まれている。

 

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そして現在に至るまでも様々な狼男映画が製作されてきているが、個人的にはそれほど狼男に思い入れがあるわけではないので、鑑賞数はそれほど多くはない。

 

ただ例えば80年代を代表する狼男映画、ジョー・ダンテ(Joe Dante)監督の『ハウリング』(The Howling)や、ジョン・ランディス(John David Landis)監督の『狼男アメリカン』(An American Werewolf in London)などは印象深い作品ではある。

 

AMERICAN WEREWOLF IN LONDON

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また、狼男よりはヴァンパイアの方を愛好しているため、ヴァンパイアの付属要素あるいは対抗勢力として描かれる狼男が登場する映画は意外と鑑賞しているような気がする。

 

例えば、レン・ワイズマン(Len Wiseman)監督の『アンダーワールド』(Underworld)とそれに引き続くシリーズ作品や、スティーヴン・ソマーズ(Stephen Sommers)監督の『ヴァン・ヘルシング』 (Van Helsing)などである。

 

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ただどちらも映画としては特出して面白い作品ではないので、ヴァンパイアや狼男を愛好していない限りは、あまり観る意義はないかもしれない。

 

さて最後に、この狼男話の〆として、ちょっと興味深い最新の狼男映画をご紹介しておきたい。

 

インディー・ホラー映画界のトッド・シーツ(Todd Sheets)監督による『Bonehill Road』という作品である。

 

この作品は、昨今の映画において不可欠となってしまったCGIというものを一切排除したオールドスクールな狼男映画なのだそうである。つまり昔ながらのスタイルを尊重し、前述の『倫敦の人狼』だったり、あるいは『ハウリング』や『狼男アメリカン』のようなかつての名作狼男映画に敬意を表して製作されたものだということである。

 

現在であれば狼男の表現にも当然CGIを駆使してしまうだろうが、もちろんそんなことはしていない。

 

Bonehill Road

image source : https://www.facebook.com/BonehillRoad/

 

確かに最先端のCGI表現には圧倒されることも多いけれど、一方では70年代80年代あたりのアナログな特撮技術の持つ迫力は、それを遥かに上回るものがあると、個人的にも思っている。

 

本作品の公開予定はまだ未定のようだが、短いティザー影像が公開されているので、興味のある方はぜひご覧いただきたい。

 

 

 

 

 

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