ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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毎晩『八月の鯨』を観ながらワインを飲み、変えられない過去を無駄に悔いる偽シェイクスピア日記。

「変えられない過去を悔いても意味がない」とシェイクスピアは言ったそうだ。

 

ストレイン』の中でエイブラハム・セトラキアンがそう言っていた。

 

確かに過去は変えられないだろうけれど、どうなるのかわからない未来だって変えられないし、過去でも未来でもない今この刹那だって、たぶん変えられない。結局全部変えられないのだから、すべてにおいて悔やんでも意味がないのだ。

 

でも人間というものは、生まれてからずっと意味がないことばかりし続けて、そして死んでゆく。

 

例えばぼくが地球の海の水を減らそうと思って、毎日毎日、海からコップ一杯の水を汲んできてトイレに流していたとしよう。それをたまたま知った通りすがりの紳士に、「きみ、海の水を減らそうと思って、毎日毎日、海からコップ一杯の水を汲んできてトイレに流しても意味がないよ。」と言われれば、「嗚呼、なるほどそうか。」と思ってその行為を簡単にやめることが出来るかもしれないけれど、もし同じ紳士に、「きみ、悔やんでも意味がないよ」と言われても、そう簡単にはやめることは出来ないような気がする。

 

そしてやはり、毎日毎日、過去や現在や未来を悔いて、気分が暗くなる。

 

そんな時は必ず、夕飯に好きなものを作って、安いガラクタみたいな赤ワインを飲みながら、リンゼイ・アンダーソンの『八月の鯨』を観ることにしている。

 

リリアン・ギッシュが演じるサラとベティ・デイヴィスが演じるリビー、小さな島で暮らす老姉妹の、なんてことのない、ある夏の日々を綴っただけの物語である。

 

ぼくはこの映画が大好きで、もう何度観たことか知れないが、何回観ても何十回観ても、いつだって素晴らしい映画のままなのだ。

 

「ビジィビジィビジィ、オールウェイズビジィ」とリビーが言う度に、なんだか楽しくなって台詞を真似してみる。

 

ヴィンセント・プライスが演じるマラノフさんが家にやってくる食事のシーンでは、なんだか一緒に食事をしているような気分になる。

 

80歳とか90歳とか、そんな年老いるまで生きたいとは思わない。だってきっとぼくはその間中ずっと悔い続けていくだろうから。せいぜい50歳くらいで十分だと正直そう思っている。でも『八月の鯨』を観ている時だけは、あんなふうな小さな島に住んで、庭の手入れをしたり部屋の掃除をしたりスコーンを焼いたりしながら、夏にやって来る鯨を待ちながら、海風に吹かれるような暮らしなら、80でも90でも100でもいいだろうなあと思って、少し幸せな気持ちになる。

 

今日もなんだかくだらない些細なことで、変えられない過去を悔い、霞んで見えないまだ来ぬ未来を悔い、そんなことを繰り返している今のこの現在を悔いている。

 

だから今日もまた、『八月の鯨』を観ながらワインを飲んで、その一時だけでも悔いるのを忘れようじゃないか。 

 

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