ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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カナダのケベック州で発生した異常な疫病、ロビン・オーベルト監督のゾンビ映画『LES AFFAMÉS』

ゾンビという言葉を原点まで遡ると、ご存知のように元はアフリカで信仰されている「ンザンビ(Nzambi)」という存在に由来すると言われている。

 

これはブードゥー教のルーツだとされるヴォドゥン(Vodun)における超常的な霊魂のことで、これがアフリカの奴隷たちによって中米や西インド諸島に伝わる過程で、ブードゥー教のゾンビというものに変化していったという経緯がある。

 

ちなみにブードゥー教には教義や教典がなく布教活動もしないため、宗教というよりはいまだに民間信仰に近いものだとされている。ぼくは実際にはブードゥー教の儀式を目の前で見たことはないけれど、映画などで、特にホラー映画などでは、トランス状態で踊り狂ったり、動物を生贄として神に捧げたりする描写がなされているため、一部では邪悪な信仰というイメージが植え付けられている。

 

かつてハイチの逃亡奴隷たちによって信仰され、そして発展を遂げたブードゥー教は、カトリック教会からは邪教だとして弾圧を受けていた時代もある。またラテンアメリカなどではさらなる信仰の混交が進み、キューバサンテリアや、ブラジルのカンドンブレなど、俗に「ブラック・マジック」と称される信仰を生み出している。

 

そしてゾンビというのは、このブードゥー教の儀式によって生き返った死体のことであるが、一説にはソンビ・パウダーと呼ばれる毒薬によって一度仮死状態にさせられた後、再び息を吹き返した人間のことであり、この際、脳に障害を負い奴隷と化し使役されている人間のことだと言われている。

 

あるいはより現実的に、地域内での村八分的な社会的制裁の対象者のことだったり、何らかの知的障害を持った者のことをそう呼んでいたのではないかという話もある。

 

しかし昨今では、ゾンビは儀式的に生み出されるものでも、そして「社会的な死者」でもなく、宇宙からの怪光線や、科学実験、未知のウィルス感染や特殊な寄生虫などが原因で死者が生き返ったものだというイメージのほうがメジャーとなっている。そしてゾンビ映画王ロメロの定義により、ゾンビにはヴァンパイア的な要素、つまりゾンビに噛まれるとゾンビ化する、というお決まりが付加されるようになっている。

 

そして、近年製作されているホラー映画の中にもゾンビ映画は非常に多く存在しており、ホラー細分化ジャンルの中でもなかなかの人気筋であると言えるのではないだろうか。

 

というわけで、今回は最新のゾンビ映画を取り上げてみたい。

 

ロビン・オーベルト(Robin Aubert)監督による『Les Affamés』である。

 

 

ちなみにこれはフランス語のタイトルだが、英題は『ラヴィナス(原題:Ravenous)』と付けられているらしい。原題も英題も「飢え」とか「空腹」とか「貪欲な食欲」とか、そんなような意味である。

 

ポスターヴィジュアルのメインで登場しているのは、マルク=アンドレ・グロンダン(Marc-André Grondin)。

 

さて物語は、カナダのケベック州にある田舎町で謎の疫病が発生したというものらしい。その疫病に感染すると人間の肉を欲してしまう、つまりゾンビ化してしまうのである。

 

 

 

ロメロなどによる初期のゾンビ映画を観ていると、ゾンビの動きは非常に緩慢で、例えば全速力で走って追いかけてくるということはないのだが、近年のゾンビ映画に登場するゾンビはしっかりとした運動能力を持っているケースが多く、恐ろしいスピードで走って襲い掛かってくる。あるいは生きていた頃にはなかった異常な運動能力が開花しているかのようにも見える。考えたり、道具を使ったりするゾンビも見受けられる。

 

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噛まれることによる感染と同様、そのあたりもややヴァンパイア化してきているのではないだろうか。

 

本作品の感染者も、普通に走って追いかけてくるようである。

 

このままいくと、人間の能力値を遥かに超えた捕食者としてのゾンビが出現してきても何らおかしくはない。まあ映画によってはゾンビと定義していないだけで、フランシス・ローレンス(Francis Lawrence)監督の 『アイ・アム・レジェンド』(I Am Legend)などは、まさにそういった映画ではあるし、同作品の原作となっているリチャード・マシスン(Richard Burton Matheson)の『地球最後の男』は初期ゾンビ映画の原点でもあるだろう。

 

 

ちなみに『アイ・アム・レジェンド』は、ウバルド・ラゴーナ(Ubaldo Ragona)とシドニーサルコウ(Sidney Salkow)の共同監督による『地球最後の男』(The Last Man on Earth)、そしてボリス・セイガル(Boris Sagal)監督による『地球最後の男オメガマン』(The Omega Man)に続く原作の映像化第三作目であるが、同作品に登場するダーク・シーカーはゾンビではなくヴァンパイアに近い存在である。

 

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ただ遥か原点をたどると、ヴァンパイアもゾンビも元は霊魂のようなものであり、同種とみなすことも出来ると、個人的には思っている。どちらも不死者だしね、ゾンビは一回死んでるけど。でもヴァンパイアも墓に埋められている死体が血を吸いに行くという話もある。棺桶に寝ているっていう表現もあるし。

 

そんなこんなで、作品の情報よりもゾンビ全般の話になってしまったが、本作品の予告編が公開されているので、興味のある方はぜひご覧いただきたい。

 

 

 

 

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