聴唖のもの
「ケンジ、おまえあのこと誰かに話したか?」
「話してないよ、だって話したって誰も信じないだろ。」
「ユキトは話したのかよ?」
「いや、話してはいないんだけど、昨日ネットで調べてたらちょっと関係ありそうなことをブログで書いてる人がいたんだよ。」
「えっ!ほんとに?」
「“カユイトコロ二テガトドク怪異”っていう名前のブログで、怖い噂とか言い伝えとか、あとは都市伝説みたいな内容を扱ってるんだけど、よくありがちなネットに落っこちてる恐い話を採集してるわけじゃなくてさ、基本的には自分の体験談とか伝説の調査記録みたいな内容を書いてて、いくつか記事を読んでみたんだけど、書いてる人、どうも同じ県内に、しかも割りとこの辺に住んでる人みたいなんだよ。それでその中に、『黒山道の怪異』っていうタイトルの記事があって、昔あそこがまだ山だった頃、あの場所は古い民俗信仰の祭祀場のような場所で、特殊な神様を祀っていたって書いてあるんだよ。」
「特殊な神様ってのは?」
「三猿ってあるじゃない、見ざる聞かざる言わざるの猿のやつ。あの起源はさ、インドから伝わったって言われているんだって。でもそのブログによると実は日本の三猿には独自の起源が存在していて、その起源ってのが古い時代に人々に崇められていた三匹の猿神で、その猿がそれぞれに、目のないやつと耳のないやつと口のないやつで、秋頃の祭りの日になると毎年、それぞれの猿神が山から降りてきて、自分にない部位を人からむしり取って食べていたっていう伝承があるって。」
「口のないやつって・・・、」
「うん、あのジイさんと同じだよな・・・。」
「でも口のないやつは、どうやって食べるんだよ・・・?」
「おれも最初読んでる時思った。でもそれも書いてあって、口のない猿神だけは首の後に口みたいな穴があって、そこからものを食べるんだって。」
「えっ、それってさ!」
「うん、あのジイさん、首の後に穴、空いてたよな・・・。」
「ユキト、お前それ、おれをビビらせるために自分で考えた嘘じゃないだろうなあ!」
「そんなことで嘘ついて何が楽しいんだよ、今日家に帰ったらネットで検索してみろよ!そのブログだって本当にあるしさ、その中の記事にいま言った黒山道のことちゃんと書いてあるから、見てみろよ!」
「マジかよ・・・。」
「そのブログ書いてる人、黒山道の両脇の山の中に自分で調べに入ってて、写真とかも色々載せてるんだよ。」
「何か怖いもの写ってるの?」
「いや、その記事の写真には特に怖いものは写ってなかったけど、あの山結構奥が深いらしくてさ、その時は一回目の調査で、特に何も見つからなかったって書いてた。おれさあ、その人のブログにコメント書いてみようかと思うんだけど、どうかな?」
「いやいや、それちょっと待とうよ。どんな人かわからないし、それはそれで怖いよ。だって、昨日のニュース見ただろ。いま町中あの話題ですごい騒ぎじゃん。」
「見た・・・、黒山道の警官殺人だろ・・・。首と足首がない死体が発見されたって。」
「異常だよ、そんな事件聞いたことある?アメリカの映画の話じゃなくてさ、日本の、しかもすぐ近所で起きた事件の話だよ。やばいだろ。」
「あのジイさんと関係あるのかな・・・、あのジイさんのこと警察に言ったほうがいいかな?」
「そんなこと言ったってたぶん警察は信じないし、それよりもおれたちが事件に関係あると思われたら、それこそやばいだろ。とにかく、少しあの事件が落ち着くまではさ、あのことは黙っておこうよ。」
「そうだな・・・。」
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月白貉