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ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲が自らの感覚で日本を歩きまわって見聞を広めたように、故郷を離れて旅を続けるぼくが、ぼくの感覚でその土地を歩き回って、見たり聞いたり嗅いだり触ったりした、ぼくの見聞録です。

青白き顔の男

「ときに、白酒さん、あなた、いったいなぜ、生きるんですか?」

 

青白き顔の男

 

その笑顔と、そして切れ切れの言葉とともに、浦島さんの口から溶けたチョコレートのような血が溢れだした。浦島さんの体は雨粒が刃となって降り注いだように切り刻まれていて、その傷から流れ出す大群の血液が、鈍い色をしたアスファルトの上を逃げ惑っていた。

 

「こんな時にもういいです、もう無理です、逃げましょう、どうしようもない、逃げましょう、はやく!!!」

 

浦島さんの周囲には黒ずんだ血にまみれて、軽く五十人を超える動かなくなった感染者が横たわっていた。そして彼に致命傷を追わせた青白き顔の男が、浦島さんの横に突っ伏して痙攣していた。その男は左の腿から下と、そして左手の指すべてを失ってなお、ひどく不快な虫の羽音のような声で笑い叫び、そしてしゃべり続けた。

 

「よく考えるがいい、数少ない勇気ある人間どもよ、誰が君たちの声を聞くのかを、誰が君たちの声を信じるのかを、君たちがよく知っているだろう。ここまで我が一族に喰い込み、そして我が一族を脅かすものどもよ、いまのこの日本が、どれほどの瓦礫にまみれ、どれほどの虚偽につつまれたおおよそ死者の国が如きかを、君たちは知っているだろう。もう終りにしたまえ、何を望み何を求むのだ、ははははははっ、多勢に無勢、雉と鷹だとわからないのかね、ははははは・・・」

 

浦島さんの一瞬の一振りで、青白き顔の男の首がはね飛び、歪んだ道路沿いの排水口でおもちゃのように揺れていた。不快な演説は幕を閉じ、真夜中をずいぶん過ぎた血まみれのサンシャイン通りには、もはや生きている人間など、ぼく以外には誰一人いなかった。

 

「弱い犬ほどよく吠えるという例えはじつに滑稽な響きですが、どうも事実のようですねえ。」

 

いつものように笑う浦島さんの顔には、すでに失っている精気の欠片どころか、不死の欠片すらなかった。

 

「こんな時だからこそ、白酒さん、あなたに聞かなければならない・・・、あなた、なぜ生きるのです、なぜですか。」

 

 

 

 

月白貉