本書は柳田國男以来の妖怪研究の伝統を踏まえた、本格的な、また正統的な最初の妖怪事典である。 -『全国妖怪事典』(講談社学術文庫)-
先日、我が親愛なる連れが、使用期限が間近に迫る何がしかの書籍ポイントが残っているから何か欲しい本はないかと言うので、いろいろと悩んだ挙句に一冊の本を選び出して、購入してもらった。
千葉幹夫の編による「全国妖怪辞典」(講談社学術文庫)なるものである。
数日すると、どこぞの窓口から連絡があり、注文した本が手元に届いた。さっそく手にとって心躍りながらパラパラと興味深く目を通しているうちに、ふと、これはもしかしたらずいぶん前に自身で買ったことのある本ではなかっただろうかという一抹の不安を覚えたが、まあ今の今手元にはない本だから、どちらにせよ、よいだろうと思って、毎日飽きもせずに齧りついている。
この本は谷川健一の編による『日本民俗文化資料集成 妖怪』に発表した「全国妖怪語辞典」に、項目の増強や加筆修正をおこなって編纂されたものである。事典という名前からもわかるように、様々な文献から収集された七百四十余の妖怪が都道府県別に整理・分類されている。ちなみに挿絵などの視覚的な情報は皆無である。
妖怪というものに惹き込まれたのはいつ頃のことだったろうかと考えてみる。
すぐに頭に浮かぶのは、幼稚園だか小学校の低学年だかの頃に買い与えられた、『水木しげる妖怪大百科』なり『水木しげる鬼太郎大百科』だろう。
毎日毎日舐め回すようにしていたから、ページも破けて、ボロボロに成り果てて、今はもう当時のものは捨てられてしまったが、大人になってからも、昔の装丁のものを古本屋で見つけては買いなおしたりしていた。昨今の書店の児童書コーナーでは、新しい装丁で再販されているものをよく目にするが、なにせ妖怪に関する本だけに、古いものに比べるとやはり何かしらの重みが違って感じる。
小学校の中ほどくらいになると、子供向けのそういった程度の妖怪本では飽きたらなくなり、同じ水木しげるのものでも「水木しげるの妖怪事典」などを図書館で借りてきて読むようになる。
すぐに読むだけでは満足がいかなくなり、図書館のものだからいつか返さなければいけないということもあったのだろうが、その妖怪事典の内容を写経さながらに大学ノートに書き写していたことを覚えている。あのノートは今でも残っているのだろうか。
いまでこそ、柳田国男やら、あるいは小松和彦などの本に好んで妖怪を読むようにはなったものの、それと同じくらいか、あるいはもっと比重の大きな割合で、水木しげるはなくてはならないものとなっている。
先日、水木しげる大先生はついに、ご逝去あそばされたばかりである。水木しげるの郷里にやっと近付いたと思った矢先の出来事だったため、残念この上なく感じたが、ここにいま身をおいていることには何かしらの縁を感じずにはいられない。来るべくしてここまでやって来たのであろう。
まあそんなわけで、せっかく手に入れた「全国妖怪事典」を使って、なにかしら妖怪に関することでもつらつらと書き残していけたらと思い、まずはその序章として、谷川健一による序文から一言引用してみたい。
深い夜の闇があってこそ、人間の意識は深く眠ることができ、新しく再生することが可能である。
『全国妖怪事典』序より
月白貉