ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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第十四話『カマキリの腕』- 午前二時の、誰かがいる階段の怪談 -

この話は、いつかどこかの真夜中の、普通の階段にまつわる怪談の十四話目です。前の話を読みたい方は、以下のリンクから、どうぞご自由に。

 

 

大通り沿いの目についたガストに入ったぼくたちは、クーラーの効いた店内のソファーに、三者三様にため息をつきながら、風船がしぼむようにしてクタリと腰を下ろす。

 

「世界は化け物だらけかよ・・・。」とダイキさんが弱々しく口を開く。

 

「ユカさん、最近見えなくなったんじゃ、ないんですか?」

 

「ずいぶん見えなくはなったのよ、これでも・・・、特に普通にウジャウジャいる人間の霊みたいなものはほとんど見えなくなったの。でもね、ああいう何か強いやつはね、場所にもよるんだけど、まだ見えるのよ。たぶん・・・石神井公園って他の場所よりもそういう磁場がおかしいっていうか、なにかがねじれた場所なのかも。」

 

ダイキさんは店員を呼んで、ドリンクバーを三人分注文している。

 

「川ちゃんなんか甘いモノとか食べたい?」

 

「いえ、ぼくは大丈夫です。」

 

「ユカは?」

 

「あたしも大丈夫。」

 

「じゃあ、ひとまずはそれで。」

 

ダイキさんは店員が去ってゆく後を追うよにして、ドリンクバーに飲み物を取りに行った。

 

「ちなみにですけど・・・さっき樹の後ろには、どんなものがいたんですか・・・?」

 

「ああ・・・、なんか手が、腕か、腕がカマキリみたいになってるデカイ影だった・・・。その他の部分はモヤモヤしてて・・・。でもなぜかこっちを見てるのは、わかるんだよねえ、不思議なことに・・・。」

 

「えっ、カマキリ・・・。」

 

第十四話『カマキリの腕』- 午前二時の、誰かがいる階段の怪談 -

 

話の途中で席に戻ってきたダイキさんにも、そのカマキリの件が聞こえていたらしく、ぼくと同じように「えっ、カマキリ・・・。」と言って一瞬動きを止めた。

 

「なにそれ・・・腕がカマキリって・・・?」

 

「あたしにもわかんないよ。そういう風に見えるのよ。川ちゃん飲み物取りに行こうよ。」

 

ぼくはユカさんと一緒に席を立ってドリンクバーに向かい、ぼくはコーラを、ユカさんは烏龍茶をグラスに注いで席まで戻ってきた。ダイキさんはグラスをぼんやりと見つめながら、何度も「カマキリかあ・・・。」とひとりで呟いていた。

 

「その占い師のお婆さん、まだやってるんですかね、石神井公園で・・・。」

 

「どうなんだろう、あれからけっこう時間経ってるからなあ・・・。あっ、小野に聞いてみようか!彼女なら地元だから何か知ってるかもしれないよ。善は急げだな、えっと・・・。」

 

ユカさんは携帯電話を取り出して、すぐに電話をかけ始めた。

 

「あっ、もしもし小野?ユカだけど、うんうん、久しぶり、今大丈夫?うんうん、そっか、あのさ、でね、いきなりなんだけど、石神井公園のあのお婆さんって覚えてる、あの人さあ、まだあそこで占いやってるのかな。実はちょっとしたトラブルがあって、もう一度あのお婆さんに見てもらいたいんだよ。うんうん、えっ、うんうん、ほんとに!?じゃあその人の所に行けば、うんうん、そっか、わかった。いま?うんうん、今は石神井公園の近くのガストにいる。うん、そうそう、そこだと思う。うん、わかった、じゃあ待ってるよ。」

 

ユカさんはずいぶん興奮したような顔をして電話を切った。

 

「小野が、今からここに来るって。」

 

「お婆さん、まだやってるんですか?」

 

「うん、やってるって!でね、なんだか最近、その弟子みたいな若い男性がいて、それも噂だからよくわかんないらしいけど、その人は石神井公園じゃなくて、連絡をとって予約すれば、ある喫茶店で占いをしてくれるんだって!彼に聞けば、お婆さんのこともわかるんじゃないのかって、小野は言ってて、詳しいことは来てから話すってさ。」

 

お題「怪談」

 

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月白貉