ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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ヌメリツバタケ(Mucidula mucida)- 松江城マッシュルームマップ -

気付けば「松江城マッシュルームマップ」の記事投稿が、今回で80回を迎える。

 

いつもいつもちょうどよい記念区切り(20回とか50回とか)を見逃していたが、あっという間の80回。いちおう目標としては100記事投稿してからの100回記念であるが、まあそれは別途盛大に執り行うとして、まさかこれほど100回に近付くとはぼく自身予想だにしなかった。

 

まったくのきのこ素人からきのこと向き合い出してはや数ヶ月、いまは自称「きのこ初級(前のめり)」であるが、きのこを追い求めて知ったことはきのこの知識だけに留まらず、本質的には「学ぶ」ということを改めて思い知らさせたことは言うまでもない。

 

よく人生の教訓めいた言葉に、「粘り強さが大切だ!」というものがある。

 

粘り強くあきらめず何ごとも継続することが大切である的なことであろう。自分で言うのも何だけれど、短期間の間にここまできのこを蒐集するのは(実数はこの数倍にも及ぶのである)、なかなかの粘り強さが必要であろう。

 

もちろん、ぼくはどちらかと言えば、ある一面においてはずいぶん粘り強い人間だろうとは思う。けれど自身が無意味だと思う「粘り」に関しては殊の外大嫌いである。ではこの「松江城マッシュルームマップ」を成し得た力は如何なるものか。

 

それは「滑り強さ」なのである。

 

そう、ぼくのいままでの経験則から提唱する人生の教訓は「粘り」にあらず、何を隠そう「滑り」なのだ。

 

というわけで、今回のハンティングきのこは「ヌメリツバタケ」である。

 

松江城マッシュルームマップ - ヌメリツバタケ -

 

タマバリタケ科ヌメリツバタケ属のきのこで、学名を「Mucidula mucida」、漢字で書くと「滑鍔茸」である。

 

傘の径は3cmから8cmほどで、表面の色は淡い灰褐色から白色をしている。そして名前にもあるように強い滑り、つまり粘性を持っている。また写真を見ていただくとわかるように柄の上部に膜質のつばを備えている。主に夏から秋にかけて広葉樹の枯れ木に発生するきのこであり、11月も後半にさしかかり寒さが増す昨今でも、雨の後などにはまだまだ枯れ木に群生をなす姿を見ることが出来る。

 

色白な表面とツルツルした滑り感が相まって見た目にもなかなか美しくキュートな容姿に加え、なんと食菌としても利用可能な万能選手である。食菌としての需要はそれほどないようではあるが、その滑りを活かして汁物などに浮かべれば最適であろう。柄に関しては繊維質でやや固めであるが傘の歯切れはよく、トータルとしてはおいしい部類のきのこである。

 

秋深く気温も下がり、きのこに群がる昆虫も減りつつあるこの頃、大量に収穫してトムヤムクンなどに浮かべれば、赤いスープに白色が魅惑的に映えること請け合い、ぼくも是非試してみようと目論んでる。

 

このヌメリツバタケの仲間には「ヌメリツバタケモドキ」と「ネッタイヌメリタケ」という容姿が酷似したきのこが二つほどある。

 

「ヌメリツバタケモドキ」の特徴はひだが著しく湾曲していることにあり、一方「ネッタイヌメリタケ」の特徴は柄につばを持たないことにある。ぼくはどちらのきのこもまだ実際にはお目にかかっていないため、詳細に関しては、いずれそれぞれのきのこに出会った際にでもご紹介出来ればと思っている。

 

さて、人生における「滑り」について、少しだけ言及しよう。

 

滑りとはすなわち、「誰からも掴まれることのないツルツルとした独自の滑りをもって生きよ!」ということである、簡単に言えば。

 

ぼく自身は、おそらく「粘り」よりも「滑り」を基礎として生きている。

 

余計な干渉を独自の滑りでするりと通り抜ける術に長けている、あるいは有無を言わせず勝手にするりと通り抜ける滑りを持って生きているのである。

 

滑りはときに水分によってその滑り具合を増加させる。

 

それはおそらくは自らの汗であり、涙であるかもしれない。まあそんな青春ドラマ仕立てはさておいても、「滑り」というのは大切な要素だと思っている。

 

生きていると思いの外、誰かに掴まれることが非常に多い、

 

それも理不尽に奴隷のごとく掴まれることが。そして掴みかかってくる巨大な手のひらには実に嫌な「粘り」がへばり付いているのである。ぼくは「粘り強い」とはそのことだと思っている。そういう粘りに関してはぼくは御免こうむるので、自らの滑りでするりとかわして生きてきたのである。そんな誰かの勝手な粘りに左右されるような生き方など、まったくおもしろくもおかしくもないからである。

 

というわけで、ぼくはここで強く言いたい。

 

「滑り強く生きたまえ、諸君!!!」

 

それが自分らしく生きることの秘訣だと思っていて、いまのところ一切譲るつもりはないのである。

 

 

 

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月白貉