ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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誰も読まないであろう、午前0時の投稿。

日本酒を少し飲みながら夕食を進め、その後にバーボンを少し飲む。

 

気が付けば、もう23時。

 

眠りにつく前に、誰にも読まれないような時間に、誰にも読まれないような投稿を残す。今さっき我が身に起こったことを、そのままここに記す。

 

読んだ方がいれば、それは幸運かもしれないし、不幸かもしれないが、前者であれば、もちろん幸いである。

 

バーボンを飲み終えた頃に、インターホンのチャイムが鳴る。ピンポーン。モニターには見知らぬ老人が映っている。23時を過ぎた時間に、見知らぬ老人が家のインターホンを鳴らしている時点で、異常なのだが、酔いもあり、チェーンをつけたままだが、玄関の戸を開けてしまう。

 

「なに、してるんじゃ?」と見知らぬ老人が、戸の隙間から顔を覗かせる。土のような顔色をした痩せこけた老人で、手ぬぐいを頭にかむり、目が青く光り、何かギラギラしている。

 

その異様な気配に酔いが覚める。そして、この老人を追い払うために、嘘をつく。

 

「刀を研いでいます、鬼を斬るための刀です、斬鬼刀というものです。」

 

老人は、何も言わずに戸の隙間から顔を引き、煙のようにいなくなる。インターホンのモニターを起動して、玄関前の映像を覗くと、壁の影に座り込み、こちらを睨みつけている老人が映っている。五分後、再びインターホンのモニターを起動すると、もう老人の姿はなくなっていたが、なにやら大きな蜘蛛が這い回っているような影が映っていた。

 

しばらくして、再びインターホンのチャイムが鳴る。ピンポーン。モニターには暗闇が映っていて、何も見えない。インターホン越しに声を掛ける。「誰ですか?」

 

「なに、してるんじゃ?」と、先ほどと同じ老人の声が、インターホンのスピーカーから響いいてくる。

 

「刀を研いでいます、鬼を斬るための刀です。」と、そう応えると、何も返事は返ってこず、黒い気配が遠ざかってゆく。

 

いまこの文章を読んでいるのが、午前0時を過ぎていたなら、気を付けていただきたい。

 

さらには、インターホンのチャイムが鳴って、誰かが訪ねてきたのならば、なおさら、気を付けていただきたい。

 

午前0時を過ぎると、よからぬものが訪ねてくる。

 

その時は、鬼を斬る刀を持っていることを、嘘でもいいから、口にするといい。

 

誰も読まないであろう、午前0時の投稿。

 

 

 

 

月白貉