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ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲が自らの感覚で日本を歩きまわって見聞を広めたように、故郷を離れて旅を続けるぼくが、ぼくの感覚でその土地を歩き回って、見たり聞いたり嗅いだり触ったりした、ぼくの見聞録です。

創造主

「お前たちは貪り食うだろう、ちがうか。」

 

あの男は、あるいは「ファースト」と浦島さんが呼ぶ人物は、彼はすでにぼくと浦島さんの背後に立っていた。

 

気付かれないように裏をかいたとか、姑息に忍び寄ったとか、そんな次元を遥かに超えていた。もう何十年も前からの続きのように、ぼくと浦島さんがそれぞれの生まれた日から変わることなく抱える、日常に潜む自らの影のように、ずっと前からその男はぼくと浦島さんの背後に立っているように、そこにいた。

 

そして二人の肩の上すれすれのところに、くすんだ青とくすんだ赤のまだら模様をした異様に大きな掌を伸ばしていた。その指先に付着した呪物のように湾曲して干からびた爪は、もう二人の息の根を完全に捕らえ終えていた。

 

「わたしは決して貪りなどはしない、最低限のものしか求めないという意味だ。

 

下劣な人間どものようにのべつ幕なしに求めたりはしないということだ。長い時間をかけて、米粒ほどの小さな蜘蛛が紡ぐ一本の短い糸に流れる血潮をすするほどだ、それだけで時間は過ぎてゆく。けれど、いくら時間が経とうとも、その一歩先に続く時間は深い靄に覆われている。色や形などはない、ただ漠然とした濃い歪みがどこまでも続いているのだ。その靄の中を進む私に銀色の稲妻のような苦痛だけが降り注ぐ。どこまで歩いてもどこまで進んでも命が尽きることは叶わない。その限りなき命がもたらす苦痛を和らげるためだけにだ、ただ地面に這いつくばって血を求める、その血を舌に染み込ませながらあてなく先に進むことだけが、永遠の私の生なのだ、人間どもの食欲などとはおおよそ異なったものだ、このおぞましき生がお前たちにわかるのか。お前たちは死ぬだろう、そう創られたからだ。あの邪悪なものどもに、遊び半分でそう創られたからだ、肉体が腐り朽ち果て滅びるようにそう創られたからだ。その先のことは知らぬ、死を持たぬ私にその先のことなど考える気遣いはない。だから勝手にすればいい。ただしだ、永きに渡る時間の中でお前たちを見ていた私は、あの憎むべき創造主に提案したのだ。ここはお前たちだけのものではないのだということを、それを気付かせる必要があると、私は提案したのだ。図に乗るのもそろそろ終わりだと言うことを、知らせる時が来たとな。」

 

叫ぶ間など微塵すらなかった。

 

ぼくの右半身に熱を持たない冷たい血液が嵐のように降り注いだ。その血液とともに、ぼくの体にすべてをゆだねるようにのしかかって来た浦島さんの体からは、首根本から上がなくなっていた。

 

その瞬間的な時間の、切り刻まれた瞬間のもう一歩手前に、浦島さんはぼくに笑顔で囁いていた。

 

「最終章のはじまりです、おもしろくなってきたじゃありませんか。」

 

 

 

 

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月白貉