ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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ウスタケ(Turbinellus floccosus)- 松江城マッシュルームマップ

 「さるかに合戦」という日本の民話をご存じの方は多いと思う。ずる賢い猿に騙されて親蟹を殺された子蟹が、仲間を集めて猿に敵討ちをするという話である。

 

細かな内容はここでは省くのだが、子蟹に加勢する仲間たちがじつに個性的というか意味不明な仲間が多いのがこの話の特徴のひとつであると言えよう。 

 

さて、その蟹側に加勢する仲間というのは、「栗」と「蜂」と「牛糞」と「臼」である。話によっては、一部メンバーが違うバージョンも存在する。「蛇」、「荒布」、「包丁」などといった別メンバーが名を連ねた絵巻なども伝えられているらしいが、今回はいちばん有名なメンバーを踏まえて話を進めることにする。

 

まず大きな疑問点といえば、仲間の多くが「仲間」というよりは「道具」である。蟹の仲間というくらいだから、水棲生物がその一番の候補に踊り出てくるとおもいきや、仲間に加わった唯一の生き物は昆虫類である「蜂」、その他は生き物ですら無い。三百歩ほど譲って、「栗」はまあ植物の種であるから生物といえば生物であろうし、もっと譲って「牛糞」もまあ別な視点からすれば生命的な要素として捉えられなくもない。

 

しかしだ、「臼」に至ってはどう考えても道具でしか無いであろう。だたこの臼こそが、敵討ちにおいて一番の大役を担っており、猿にとどめを刺すのは何を隠そうこの臼大将なわけである。

 

というわけで、今回のハンティングきのこは「ウスタケ」である。

 

松江城マッシュルームマップ - ウスタケ -

 

ラッパタケ目ラッパタケ科ウスタケ属のきのこで、学名を「Turbinellus floccosus」、漢字で書くと「臼茸」である。

 

傘はだいたい4cmから12cmほどで鮮やかな赤みを帯び、深く柄の根元まで通じている。また幼菌の頃には角笛のような形をしているが、成菌になるにしたがい漏斗やらラッパのような形となる。その容姿はじつに個性的で美しく、まるで南国に咲く花のようでなんとも見応えたっぷりのきのこである。この日は雨上がりだったため、全体的に雨のダメージが強くやや見劣りはしていたが、くぼんだ部分にたっぷり水をたたえた景色などはまた違った風情で十分楽しめる。

 

さて食毒はといえば、このきのこは毒を持っており、中毒症状としては下痢や嘔吐などの胃腸系障害を引き起こす。毒性分としてはアガリチン酸、ノルカペラ酸などであるが、文献によれば煮こぼすことで食用も可能だとか。うむ、この形から言って、ラッパのように口に加えて「プープー」と吹き鳴らしながら食べてみたいところではあるが、若干注意が必要であろう。

 

さて、サルとかカニな話に少しだけ戻る。

 

猿蟹合戦の登場キャラクターのほとんどが生き物ではないという点、おそらくそこには昔の日本人の「物」への考え方や視点が含まれている結果であるかもしれない。もうひとつは、復讐劇の脚本有りきでメンバー構成が考えられており、猿の動線上に仕掛けられた罠の役割を担うのが、仲間とされる一部の道具たちなのであろう。

 

あの作戦をいったい誰が考えたのか、話の中で出てきたかどうかは忘れてしまったが、子蟹が各種道具を使ってひとりで成し得た敵討ちとしても、おそらく捉えられなくはないであろう。ずる賢い猿と、その猿に騙された愚かな親蟹と、復讐に燃える戦略家の子蟹の物語。

 

まあでも仲間が集まってかたきを討つ方が、作品的には確かに盛り上がるのであろう。「指輪物語」でフロドがひとりで指輪を処理してしまう話なんて、まったく面白くはないだろうからして。

 

あっ、そういえば指輪物語にもなんだか訳の分からないキャラクターは多数出てくる。なるほど「さるかに合戦」のジャンルは、ファンタジーなのだな、きっと。

 

 

 

もえほん紅版 さるかに合戦

もえほん紅版 さるかに合戦

 

 

 

 

月白貉