カクサレタモノ - ソノニ
そのトンネルの話で、ある地元の人から聞いた不可思議な話があった。
その人は知り合った町の住民の中でも、いろんなことを包み隠さず話してくれる数少ない人で、なかなか年配の、いわゆる地元の古老的な存在だったのだが、
雰囲気は江戸の下町風にべらんめえ口調な感じでものを話す人で、ぼくはその話口調が好きでよく道端で出会うと世間話をしていた。
ある日の午前中に、いつもの様に道端で行き会ったその人が、古老数人で世間話をしていたので、その輪に入りつつ耳を傾けていたのだが、その内容がちょっと不気味なものだった。
「・・・だってさあ、新聞配達をしてるあの人にきいたんだけど、早朝にね、動物でも人間でもないものがいるのをよく見るってさ、人間の上半身だけの真っ黒い影みたいなものが、歩いてるって。」
その話をきいてびっくりして割って入ったぼくが「えっ!!!それはなんですか!?」と言うと、
「あそこのお寺があるでしょ、しってる?あそこの先は死体が出るってさ、土葬だったから死体が歩くってさ、怖くて夜なんかいけないわね。」
その話が体感的にとんでもなくリアルで、その後引っ越すまでの間、あのトンネルが怖くて通れなくなった。
月白貉