オオカミ少年とヒバゴン
きのこを探して雑木林の奥深くを歩いていたら、その林の外の広場に小学生の集団がいて課外授業らしいことをしていた。
ぼくのいるところからはずいぶんと距離があったし、さらにぼくは鬱蒼とした樹々の奥のほうで、地面すれすれまでしゃがんで写真を撮ったりしていたので、ぼくの姿はその小学生たちにはほとんど見えなかったとは思うのだが、ひとりの生徒が雑木林の中のぼくを視界に捉えたらしく騒ぎ出した。
「人がいるっ!!!せんせ〜っ!!!!人がいるっ!!!!!」
その叫び声を聞きつけた他の生徒たちがざわつき出して、どこだどこだみたいなことになっているのが何となく感じられた。
すると引率している先生らしき大人が、生徒たちの行動を制止するために、
「いないっ!あんなところに人はいないからっ!!静かにしなさい!!!」
と大声で叫んでいるのが聞こえてきた。
ぼくはその時、「わしゃ、ヒバゴンか。」とぼそっとつぶやいたのだが、
雑木林の奥でぼくが蠢く姿を見つけた彼は、ほんとうに人がいるから人がいると言ったのに、その大人は彼の発言を確認しもせずに完全に否定して他の生徒に伝えていた。あれではまるで彼が嘘つきみたいになってしまうじゃないか。だってほんとうに人はいたのだから。
詳しい状況は見ていなかったから知らないけれど、声だけ聞く限りでは、その大人は自分の都合だけを優先して、彼の発言をもみ消してしまったようにぼくには思えた。
彼はきっと傷ついたんじゃないのだろうか、ぼくだったら傷つくだろうなあ。
もしあれが先生ならば、教育者にあるまじき行為だと、きのこを探す雑木林の中でふと思ったのであった。
月白貉