光に続く闇の物語
この数年間、見知らぬ土地で本当に孤独でひとりぽっちだったぼくのそばで、ぼくのことをあたたかく、そしてつよく照らしてくれていた光が、遠ざかっていってしまった。
その原因の多くがぼくにあることはよくわかっている。
よくわかってはいるけれども、あまりの絶望感と空虚感に襲われたぼくは、昨日の夜、声を出して烈しく泣き、涙をボロボロと流し、自分を何度も罵った。その行為にはまったくと言っていいほどに何の意味もなかったけれど、おそらくあの瞬間、そうする以外に、ぼくに出来ることはなにもなかったはずだった。
その後、残り物のサラダとパスタとミートボールを食べながらワインを飲み、どこか遠くで優しく灯っているであろう光のことを思った。そしてそのまま、部屋の空気に溶け込んでしまうようにして眠りにつき、12時間眠り続けて、いま目を覚ました。
目を覚まして部屋の中に立つと、大凡、まったくと言っていいいほど、これからいったい何をしていいのかわからなかったが、しばらくしてからある思いが頭と体を巡った。
光の物語の第一幕は閉じてしまったが、ここからが第二幕へ続く間奏なのだ、それはもしかすると長い暗転のような暗く寒々しい時間になるかも知れないが、光の第二幕は必ず幕を開けるのだと。
光が去ってゆく直前に、ぼくは自分自身を圧倒的に変えることを、光に誓った。たとえ光がここから去るのだとしても、その誓いは動じないと。
そしてもうひとつ、いまや生ける不死者に等しいぼくは、光にこう告げた。
「貴女に一途な想いを寄せ続けるヴァンパイアとして、毎夜あなたと、わずかでもいいから言葉をかわすことを許して欲しい。」
「いまでも貴女に海のような愛を注ぎ、そして心を捧げ続けるかつての騎士は、自らの愚かな行為によりいま、一度目の死を迎えることになった。けれど騎士は自らに呪いをかけ、死してもなおこの世界で生き続け、苦しむ道を歩む生ける不死者となった。それはもちろん、貴女のいる世界を離れることが呪いを超える大きな苦しみだからだ。」
「明日のことは誰にもわからない、誰にも決めることなど出来ない。不可能は通過点でしか無く、それは可能性だ、不可能などないのだと、名もなき吟遊詩人は歌った。そうなのであれば、貴女と私の間にある闇のような霧が、いずれ消え去る日が訪れるかも知れない。私は不死者として、貴女に初めて出会ったあの日のように、貴女に恋い焦がれながら、その時を待つ。再び貴女をこの胸に抱きとめる日々を待ちわびる。」
第一幕と第二幕の間の、光に続く闇の物語が、ここから今、始まるのだ。
月白貉