ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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夏休みにブログに寄せられた、本当はコワい見知らぬ誰かのコメントの話。

ぼくの書いているウェブログにある日、不可思議なコメントが寄せられた。

 

夏休みにブログに寄せられた、本当はコワい見知らぬ誰かのコメントの話。

 

ぼくのウェブログの設定では、コメントを受け付けるのはそのサービスのユーザーに限定しているし、さらにはコメントを承認制にしている。つまりはある程度の限定された人々からのコメントしか受け付けていないし、その中で誰かがもしぼくの文章に対してコメントを書いたとしても、ぼくが承認するまではコメント欄には表示されないということになっている。

 

それであればいっそのことすべてのコメントを受け付けなければいいとも思ったのだが、そうなってしまうとなにか少し寂しい気がして、一歩下がっているのが、いまのぼくの立ち位置になっている。

 

前略、あの山の奥には、ゆかれましたか?

 

そのコメントが書き込まれたのは、ぼくが自身の創作として書いている短い小説崩れの文章だった。内容はと言えば、ある日恋人と共に近所の寂れた神社に昆虫採集にゆくと、山をご神体として祀るその神社の境内で、宙に浮かぶ怪しげな老婆の姿をしたモノに出くわす、というようなものだった。夏ということもあって、何か怪談めいたものが書きたくて即興で考えだした物語だったのだが、この話は完全なる創作ではなく、実際にぼくがこの夏に体験したある出来事をベースとしたもので、さらにはその八割九割が事実に基づいているため、ある意味では日記か、あるいはノンフィクションとでもいうべきものであり、まさにほんとうにあった恐い話を、書いたものだった。

 

 

もちろんウェブログには小説というスタンスでその文章を上げており、話の内容からしても、あれを実際の出来事だと考える人はまずいないだろうと思われた。つまりは、あの物語がほぼ実話であることを知っているのはぼくと、あともうひとり、実際にぼくと一緒にその怖い体験をした、話の中にも登場する恋人のナツミだけだった。

 

「ねえ、あたしさあ、こんな喋り方かなあ?」

 

「う、うん、けっこう忠実に再現してると思うけれど・・・、なんか不満な点があった・・・?」

 

「う〜ん、ま、いっか。それでさあ、そのコメント書いた人さ、誰かって調べられるの?」

 

「調べられるって言ってもまあ、実際の個人を特定するところまではちょっとね・・・、そんなこと出来たらサービスとして問題あるしね、限界があるけど。このオトナブログっていう、おれが使ってるブログサービスをこの人も使ってるからさ、この人のプロフィール情報だったり、もしくはこの人がブログに何かごくごくプライベートな事を書いているような人だったら、そのへんはブログを読んでいけば、何かわかるかもしれないんだけど、まあ、おれはもう昨日ちょっと見てみたんだけどさ・・・。」

 

そのコメントを書いた人物のハンドルネームは「ラゴ」というものだったが、プロフィールのサムネイルは初期設定の人の影をしたグラフィックのままだったし、プロフィール情報にも一切何も書かれていなかった。ブログに関しても同じで、たった一記事、よく意味の分からない日記のようなものが投稿されているだけだった。

 

「日記って、何書いてあんの?」

 

「ん〜、なんかね、ちょっとまって、いま開くから・・・。」

 

「冷蔵庫のさあ、ブルーベリー食べていい?」

 

「あ、ああ、どうぞ、勝手に食べてください、ヨーグルトも入ってるでしょ、下のとこに。」

 

「あ〜、それ、一緒に食べる。」

 

「どうぞどうぞ、あれ・・・、アカウント自体が・・・、あれ・・・、やっぱないや、アカウント自体がもう消されちゃってる・・・。」

 

「アカウントって?」

 

「あ〜、このサービスの利用をさあ、本人がやめちゃったのかも・・・。そうするとそのユーザーの情報は消されちゃうから、ブログにもアクセスできなくなっちゃうんだよ。昨日の夜はまだあったんだけどなあ・・・、キャッシュとか見られないかな・・・。」

 

「ふ〜ん、じゃあ、わかんなくなっちゃったね。」

 

「あれっ、コメント増えてるよ・・・、あっ・・・、またこのラゴって人だけど、別のアカウントっぽいな・・・、なんか怖いな、新手のスパムかな。」

 

「スパムってなんだ?」

 

「ああ・・・、まあそれはまた後で言うけど、ちょっと読み上げてもいい?」

 

「イエスっ!」

 

前略、彼の地のヤミゴラ、当方にて閉じましたので、では失礼。

 

「ヤミゴラかあ、あそこってヤミゴラのレベルかあ、そりゃヤバイわ。」

 

「なに・・・、納得しちゃうわけ、これ読んで・・・。おれにはまったく意味分かんないし、ちょっと怖いんですけど・・・、あの神社のことなの・・・、ナツミまさかさあ、きみがこのラゴってアカウントつくって、おれにいたずらとか、してないよねえ・・・?」

 

「ははっ、してないよ〜、ユウすぐ疑うからなあ、あたしパソコンとかまったくわかんないし。」

 

「いやいや・・・、ナツミそういうこと、しそうだからさ・・・、まあいいや、で、ヤミゴラって、なに・・・?」

 

ナツミが透明の器にヨーグルトとブルーベリーを入れて、なんだかどこかの国の民族舞踊を踊るみたいにしてぼくの座っているテーブルまで歩いてくる。

 

「あの時さあ、穴の話したじゃん。穴が空きっぱなしになってると、あのおばあちゃんモドキみたいなのが、出てきちゃうって。その穴にもいろんなのがあってさ、ん〜、ヤミゴラってのは、けっこうその中でもさ、ちょ〜強力なヤツなんだよ。なんていうか、ちょっともう人の手には負えないっていうか。あたしの魔切りなんかじゃさあ、まったく歯がたたないようなモノ、たぶんガンガン出てくるよ。」

 

「はあ・・・、そうですか・・・。」

 

「でもこの人、それ閉じちゃったんだね、ラゴちゃんだっけ。すげえな、ラゴちゃん、只者じゃないな、きっと。」

 

「ちゃん付け・・・、ってかこれ、書いてるだけで本当かどうかもわかんないし・・・、なんかちょっと気持ち悪いよ。」

 

「きょうこれからさあ、あそこ行ってみよっか!」

 

「え〜っ!!!」

 

to be continued...maybe. for mhkj2

 

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月白貉