ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲が自らの感覚で日本を歩きまわって見聞を広めたように、故郷を離れて旅を続けるぼくが、ぼくの感覚でその土地を歩き回って、見たり聞いたり嗅いだり触ったりした、ぼくの見聞録です。

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終末サブカルチャー

「現在、皇居を通過した牛久大仏は、国会議事堂に向けて進んでいるとの情報が入ってきましたが、原因不明の電波妨害のため、現場の詳しい状況はわかっておりません。また都内各地の神社仏閣で、石仏などが動き出して近隣の住民を襲いだしているとの情報も入ってきています。避難場所が神社仏閣に指定されている地域の住民の方は、十分に注意してください。」

 

牛久大仏が動き出して東京を襲う夢をみたのは、一年前だった。

 

ぼくは牛久大仏の実物を見たことはないので、夢に出てきたあの雲を突くような仏像が、ヴィジュアルとして本当に牛久大仏かどうかは、その時は正直分からない。ただ夢の中での報道によれば、東京を襲っているのは牛久大仏だと、見知らぬ女性アナウンサーが伝えていた。

 

「現時点までに出されていますメディアを通じた避難勧告についても、先程もお伝えしましたように原因不明の電波妨害、およびインターネット網の大規模なダウンにより、十分行き届いていない可能性があります。そのため住民の避難は自衛隊の直接の指示によって、順次進められている模様です。また、国の特別対策委員会の発表によれば・・・」

 

緊急速報として、テレビのすべてのチャンネルの映像が切り替わり、そこには皇居の建物を足でなぎ倒してゆく巨大な仏像の映像が流されていた。

 

夢の中でぼくは、隣りに座って一緒にテレビを観ていた彼女に「逃げよう!」と言って手を引っ張り表に飛び出す。昼間なのだが日蝕の時のように周囲が暗くて、遠くから凄まじい地響きが聞こえてくる。通りには多くの人々が叫びながら逃げ惑っていて、その先を見ると、そこには錫杖を振り回して人間の頭をスイカのようにかち割っている地蔵の集団がいる。地蔵の足は人間のように生々しく自由に稼働していて、地蔵の顔はみな狂ったような笑顔に変わっている。中には人間のように眼球を持つものさえいて、ギョロギョロと四方八方を見回している。地獄絵図ならぬ、極楽絵図とはあれのことかもしれないと、ぼくはその有様を見て少し感心する。

 

地蔵たちがこちらに迫ってくるので、彼女の手を引きながら必死で逃げていると、目の前の小さな交差点に山伏のような格好をした大男が二人立っている。

 

「早くこちらにっ!」と、そのひとりがぼくたちに叫び、もうひとりが腕を突き出して掌を開くと、足を広げて腰をグンと落とし、何か戦う直前の構えのようなポーズを取って動かなくなる。

 

「それ以上こちらに近付いてはならんっ!我々は、新世界の使いのものだっ!」

 

ぼくと彼女が二人の大男の背後に身を隠すと、構えを取っていない方の男が地蔵たちに向けて大声を上げた。返り血を浴びて赤く染まった無数の地蔵はその声にまったく怯むことなく、圧倒的に禍々しい空気を纏いながら、こちらに向けて狂ったように走ってくる。しかし突然、見えない壁にでもぶち当たったように、地蔵たちが何もない空間に体を打ちつけ、そのままバタバタと倒れてゆく。

 

次の瞬間、構えをとっているほうの男が光のような速さで倒れた地蔵たちに駆け寄り、掌を拳にして次々と地蔵の頭を粉砕しだす。まるで湿らせた砂で作った柔らかい玉を拳で潰しているかのように、ぼくの目には映る。

 

こちらに待機する男が、「地蔵たちをあのレベルにまで操れるとは、厄介なことになりだした・・・。」と言い、あちら側で地蔵たちを潰している男がそれに応えて、「誠に厄介であるっ!!!」と空気がブルブル震えるような大きな声を放った。

 

江戸六地蔵の防衛網は、今でも稼働していたのではないのか?」

 

「わからぬ。お師匠の話によると、例の堅魂舞(かたこんべ)とかいう新興宗教団体が、江戸の防衛網を潰しているとか。牛久などまだよいが、奈良鎌倉となると、いよいよ厄介極まりないのう、厄介では済まなくなる。」

 

「天風先生は?」

 

「もちろんすでに動き出しておる、上野を稼働させるのであろう。」

 

「上野か・・・あれはちと危険だのう。」

 

「いずれにせよ、わしはお師匠と共に、高野山に向かう。」

 

空海か・・・あれこそ危険だのう・・・まあよいか、では、わしは天風先生と合流する。」

 

「相分った。」

 

終末サブカルチャー

 

 

 

 

月白貉