いつかどこかの電報のように終わる日記、あるいは終わらない日々。
久しぶりに日記らしいものを書こう。
昨日の深夜、つまり今日の早朝、眠りにつく前にカーテンを開けると、ベランダを巨大な蛾が飛んでいた。ちょっとした鳥くらいの大きさの蛾だった。すぐにカーテンを閉めて眠りにつき、翌朝カーテンを開けると、窓ガラスに変な毛がびっちり付着していた。
蛾の毒毛かなあ、拭き取るのやだなあ、と思って放置。
いずれ風で洗い流されるだろうと願う。もし流されなかったら、コウモリの心臓と、ヤモリの目玉と、ゴマダラオオムカデと、コビトザルの小指と一緒に煮込んで、秘伝の毒を作ろう。
で、吹き矢の針の先に塗って、竹薮の陰から射る。嫌なやつを射る。死に至る毒だから、死ぬ、たぶん。この秘伝の毒、欲しい人は挙手してください。クール宅急便で送ります。
午後、ついさっき、書店で本を物色していると、ぼくの後ろで小学校低学年くらいの女の子とその父らしき人が、ポケモンの話をしているのが耳に入ってくる。
女の子が「ポケモンって人気だね。」と言うと、父が「そうだね、人気だね。」と答える。するとすかさず女の子は「なんでやねんっ!!なんで人気やねんっ!!!」となぜかよしもとのベテラン芸人ばりのツッコミを、父に入れる。
なかなかセンスのよいキレのある、そしてかつ理不尽なツッコミ、素人とは思えない。
不覚にも、ついうっかり笑ってしまう。
気が付くと、日が暮れている。日課のジョギングに出かけようと思っていたら、今日はなんだかもう、面倒くさくなった。食事の支度もしなければいけないし、もう面倒くさくなった。
誰かぼくの代わりにジョギングに出てくれたらいいなあと思って、ちょっとだけ窓を開けてベランダを覗き込むと、数ヶ月前にベランダで死んでいたヤモリがカリカリのスーパークリスピーな干物になっているのを見つけた。
あれを今日のシチューに入れてみて、さらに窓の蛾の毒毛も入れてみて、押し入れにしまってある呪いの器で食事に添えたら、さぞ恐ろしかろうなあと思う。
食べたら死ぬだろうなあと思う、毒だから。
そんな風にして毎日毎日、誰かを憎んだり、毒を作ったり、思いがけず笑ったり、面倒くさくなったり、迂闊な行動をとったり、死を恐れたりしている内に、一日が終わってゆく。
いつかそんな、ぼくのいろんなことが無に帰して、ぼくのなにもなくなる日まで、たぶんそんな日々が続いてゆくんだろう。
人生で何度目かの日記を、唐突に終わる。
レンラクコウ シチコクヤマ
月白貉