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ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲が自らの感覚で日本を歩きまわって見聞を広めたように、故郷を離れて旅を続けるぼくが、ぼくの感覚でその土地を歩き回って、見たり聞いたり嗅いだり触ったりした、ぼくの見聞録です。

第十六話『魔術』- 午前二時に何かが降りてくる、階段の怪談 -

小説 小説-短編 小説-階段の怪談

この話は、午前二時になると何かが降りてくる、どこにでもある普通の階段にまつわる怪談の十六話目です。前の話を読みたい方は、以下のリンクから、どうぞご自由に。

 

 

ユカさんは、ぼくとダイキさんの顔を交互に何度か見て、それから目を瞑ってソファーの背もたれにグッタリと身を委ね、しばらく動かなくなった。

 

「あれ、ユカ眠っちゃったの・・・?」

 

小野さんがオレンジジュースの入ったグラスを二つ手に持って席に戻ってきた。

 

「眠ってないよ、小野、あれ見て・・・。」

 

ユカさんが見えない誰かにキスをするみたいにして、喫煙席に座る老婆を顎で指し示した。小野さんが、声を出さずに「あっ!」という顔をして大きく口を開ける。

 

「なんだよ、ババじゃん!あたし、今さっきすぐ横を通ったのに・・・なんで気が付かなかったんだろう・・・。あんな目立つ格好してるのに、全然気が付かなかった・・・、なんでよ・・・?」

 

「あたしも、まったく気が付かなかったんだよ・・・、川田くんに言われるまで・・・。」

 

ダイキさんは、じっと動かずに老婆の方を凝視している。ユカさんがダイキさんの腕を叩いて「見過ぎだよ、見過ぎ!」と小さく囁いた。そして再び小野さんの方を向きなおり、顔を近づけて小さな声で話し始めた。

 

「たぶんね、完全に気配を消してるんだと、思うんだよ。なんかそういう特殊な力を、使ってるんだと思うんだよ。じゃなかったら、あんな目立つ格好してるお婆さんを・・・、見逃すわけないよ。」

 

「特殊な力って何よ・・・?魔法使いみたいじゃん・・・。ユカの持ってるやつと同じってこと?その、幽霊見たりお化け見たりするやつと。ユカも消せるの、気配?」

 

「あたしは、そんなこと出来ないよ。出来るわけ無いでしょ。それに、何かが見えるってことで言えば、あの人はたぶん、あたしの比なんかじゃないでしょ、きっと。」

 

ユカさんが突然首を傾げながらぼくの顔を見た。

 

「ねえ川田くん、あの人のこと、いつから気付いてた?」

 

「いや、わかりませよ。最初はあの席、誰もいないと思ってたけど、今さっきふと目を向けたら、おかしな客がいるなあと思って・・・。」

 

ユカさんは目をギョロギョロさせて、テーブルの上の何もない場所を見つめている。

 

「もしかしたら川田くんさあ、実は・・・、」

 

突然、ダイキさんが「わっ・・・。」っと声を出した。

 

第十六話『魔術』- 午前二時に何かが降りてくる、階段の怪談 -

 

「どうしたの?」

 

「占いババ、こっち見て変な風に笑ってるけど・・・、あれ完全にオレたちのこと見てるよな・・・?窓の外とかじゃ、ないよな・・・。」

 

ユカさんと小野さんが同時に「えっ・・・!」と言い、老婆が座っている席の方に顔を向けると、席に座っていたはずの老婆が姿を消している。ぼくはすぐにドリンクバーやトイレの入り口にも目を向けてみるが、老婆の姿はどこにも見当たらない。再び目線を移動して隣りに座る小野さんの横顔の辺りに視線が流れた時、小野さんのすぐ横に真っ黒いものが立っているのに気が付いて、驚いて後ろに仰け反ってしまう。

 

ぼくたちが座る席に密着するようにして、老婆が佇んでいる。

 

他の三人も、ぼくと同じようにまるで何かのコントみたいに仰け反っている。

 

「あら、どうも知ってるお嬢さんたちだわね、こんにちは。」

 

ユカさんが「あっ、こんにちは・・・。」と言ったので、つられて他の三人も「こんにちは・・・。」と声を出してしまう。

 

「まあちょっと座らせてよ、立ってたら疲れちゃうからね。」

 

そう言って老婆は、小野さんの隣のスペースにズリズリとお尻を食い込ませてきたので、ぼくも小野さんもそれに押されるようにして、ソファーの奥へと移動した。腰を下ろして「はあ・・・。」と溜息をついた老婆が、通りかかった店員に声をかける。

 

「おねえさんちょっとね、あの席から移動するからね、ちょっと悪いけど、いろいろ置いてきちゃったから、持ってきてくれるかしらね。わしは足が悪くて、あまり動けないのよ。悪いけどお願いね。」

 

声をかけられた若い女性店員が、「あっ・・・、はい、かしこまりました。」と言って老婆が座っていた席に向かって歩いて行った。

 

こちらに向きなおった老婆は、四人の顔を順番に舐めるようにして眺めてから、顔をシワクチャにして、とろけるような不気味な笑顔を浮かべた。彼女の顔のいたるところには、極小のまち針のようなものが刺さっていて、さらに下唇の右端に、何か見知らぬ細長い生き物を象ったような金色の、おそらくはピアスだと思われるものを付けている。

 

「それでさ、あんたたち、まずね、ここに来る前に公園にいただろ?樫の木の所に行っただろ、違うかい?あそこで、何かに見られやしなかったかい?」

 

ユカさんが「は、はい。」と、怯え気味にそれに応える。

 

「だろ、だからこのお兄さんが切られてるんだろ。ちょっとこれ塗っとかないと、あぶないから、これ塗ってやるからね。」

 

老婆はそう言って、右手の人差し指と中指を自分の口の中に突っ込んでから、左手でダイキさんにこっちこっちと手招きをした。ダイキさんが「えっ、オレですか・・・?あっ、はい・・。」と言いながらテーブルの上に身を乗り出すと、彼女は「左腕、左腕。」と言って、差し出されたダイキさんの左腕を掴むと、口から出したべっとりと濡れた指で腕の内側に何か文字を書くようにして唾液を擦り付けた。

 

唾液を塗った部分がミミズ腫れのように真っ赤になって膨れ上がったが、しばらくしてスッと消えるように、それはなくなった。

 

「まあ、応急処置ね。あんたの家、何かいるだろ?そういうもの治せるのが、ああ、猫かね。おや、なかなか強い猫だねえ。じゃあ安心だね。あとは猫が治してくれるよ。」

 

老婆はダイキさんの左腕を掴んだまま、眼球をおかしな具合にクルクル回転させた。

 

「じゃあ、本題だね。お嬢さん、お久しぶりね。あっ、その前に自己紹介が必要だわね。わしの名前はセパというの、よろしくね。」

 

お題「怪談」

 

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月白貉

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