”それは夜にやって来る”、やけに玄関が怖いトレイ・エドワード・シュルツ監督の『IT COMES AT NIGHT』。
玄関って怖い。
もしかしたら普遍的なことではなく、ぼく個人的なことかもしれないので、ぼくが玄関恐怖症なのだとも言えるけれど。
なぜ玄関が怖いのかなあと、改めて考えてみると、まずぼくが成人する直前まで暮らしていた実家には、玄関というものがなかったからかもしれない。
実家は江戸時代から続く商人の家だった。そしてそのことが玄関という概念が希薄だった理由だとかなんとか祖母だかに聞かされた覚えがあるが、正確にはよく覚えていない。ただ理由はともかく玄関という概念は完全になかった。
簡単に言うと『8時だョ!全員集合』の家族のコントの時に出てくる断面から家の中がすべて見えるような構造で、つまり台所からでも居間からでも応接間からでも、どこからでも中に入れるし、よく知らない人は一体どこが入口なのかがわからなくて途方に暮れるような家だった。
だから子供の頃は、友だちの家に行くと大抵は玄関があって、玄関っていいなあと、すごく羨ましかった。ただ、商売をしている家は玄関の概念が希薄な傾向はあったような気がする。商売をやっていた鈴木くんの家はやっぱり玄関がなかった。
あるいは商人の家の玄関は店の入口になっている場合があるから、店と居住スペースが連結している場合は、それが玄関の役割を果たしているかもしれない。けれどぼくの家の場合には店と居住スペースは別になっていたし、厳密に言うと家の敷地の一番奥に、いわゆる玄関らしき場所は存在したのだが・・・、家族は誰ひとりとして玄関として使っていなかったし、ずっと鍵がかかっていた。
今思うと、何かちょっと怖ろしい気配がする。
大学に入って東京で一人暮らしをするために借りた部屋は、もちろんアパートの一室なので玄関があった。当時の記憶は曖昧だが、ぼくにとっては玄関のある家に住むということは、ずいぶん画期的だったはずである。ただその一人暮らしの頃からだが、誰かや、あるいは何かが入ってくるのは玄関に集約されるため、それが気にかかりすぎるようになってしまった。友だちや恋人などの“いいもの”も訪れてくるが、新聞や宗教の勧誘、あるいは泥棒などのぼくにとって“あしきもの”も訪れてくる。なんだったら超常的なものだって、あえて玄関から訪れてくるかもしれない。
「ピンポーン」とチャイムが鳴る。玄関に誰かが来ている。それが、ぼくはいつからか怖いと感じてしまうようになった。もちろん知り合いだったらほっと胸を撫で下ろすが、そうでない場合も実に多い。はじめて住んだアパートにはモニター付きインターフォンなど付いていなかったし、インターフォン自体がなく、チャイムが鳴るだけだった。だから玄関のドアを開けて顔を出すか、ドアの覗き穴で確認しない限り誰なのかがわからなかった。
よく怪談なんかで、玄関のチャイムが鳴ってドアを開けても誰もいない、またしばらくすると玄関のチャイムが鳴るが、再度ドアを開けてみてもやはり誰もいない・・・、なんてものがある。
結局、玄関っていうのは異界との境的な存在だとも考えられる。つまり安全な家の中と危険で不可思議な外界を繋いでいるのが玄関なのである。例えば村の入口とか、四つ角とか、神社の鳥居とか、そんな場所と同じようなものだと捉えられなくもないということ。
ぼくの実家に玄関がなかったことがそれと関係があるかどうかは定かではない。けれど、今でも玄関が怖いのである。
というわけで、前置きが長くなりすぎたが・・・、ちょっとそんな話に関係がありそうなホラー映画の話題を取り上げてみたい。
トレイ・エドワード・シュルツ(Trey Edward Shults)監督による『It Comes at Night』である。
image source : It Comes At Night | Official Teaser Trailer HD | A24 - YouTube
実はこの作品はまだ多くが謎に包まれていて、物語などもよくわかっていない。ただ公開されている予告編と、そして本作品のタイトルから予想するに、予告編の要になっているのは家の玄関なんじゃないのかと思う。そして「家の外に何か邪悪なものがいて、夜になると家の玄関にやってくる」のではないのかと思う。あるいは家の中にも?たぶんね。
また予告編に先立って公式のポスター・ヴィジュアルが公開されていて、それがシンプルなのだが、なかなか恐い。犬にはなにかの気配がわかるのだろう。
image source : It Comes at Night (2017)
というわけで、玄関恐怖症の方も、そうでない方も、ぜひその謎の予告編をご覧いただきたい。
ちなみにアメリカでの公開は2017年8月25日を予定している、怪談には持って来いの時期だね。
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