空間の温度変化で、そこに何かがいることを知る。
風呂場から聞こえてきた奇妙な音の正体を確かめるためにビデオカメラを持って風呂場に向かうと、そこには寝室から消えたクマのぬいぐるみが横たわっていた。
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厳密に言えば、ぬいぐるみは消えたのではない。
私が外出中に居間の押し入れから這い出てきた不気味なピエロマスクをかぶった何かに持ち去られたのが、ビデオカメラの映像にはっきり記録されていた。
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この二日間に起こった出来事が、いつか覚める眠りの中の悪い夢であることを今は強く願っているが、それが夢でも現実でも、今私はそのただ中に立っている。
ミドリが仕事のために家を出た後に、私は軽くシャワーで体を洗い流した。しかしその際には風呂場のどこにもぬいぐるみの姿などは目に入らなかった、そもそもぬいぐるみは家の中のどの場所からも姿を消していたはずだった。
ミドリにはビデオカメラの映像は見せていないし、映像に映っていたあれのことも話してはいない。そしてあれが持ち去ったぬいぐるみのことも黙っている。だから彼女は今この部屋で起こっていることを何一つ知らないでいる。
押し入れにいたピエロマスクの何か、脱ぎ捨てられていたマスクと紙袋、寝室から消えたクマのぬいぐるみ、風呂場に突然現れたそのぬいぐるみ、数日前から部屋の中を漂い続けていた異臭、風呂場から聞こえてきた奇妙な物音。
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私一人しか知らない今のこの状況は、本当に起きていることなのだろうか。本当に映像にはあの何かが映っているのだろうか。本当にクマのぬいぐるみは寝室から消えて、風呂場に突然現れたのだろうか。部屋の中で漂っている異臭や奇妙な物音は現実なのだろうか。
ミドリは臭いなどしないと言っていたし、家の中でおかしな音がするなどということを口にしたことなど一度もなかった。
2016年11月3日、これから仕事の打ち合わせのために外出する。小一時間ほどで戻る予定だが、念のため今度は風呂場にビデオカメラを設置して何かおかしなことが起こっていないかを撮影しておくことにする。ピエロマスクの何かが映像に映っていた日から、部屋の中を漂う異臭はまったくなくなった。しかしその代わりに、頻繁にあちこちでおかしな物音が鳴り響くようになった。
そして、部屋の中の温度が異常なくらいに下がったような気がする。
帰宅後に、ビデオカメラの映像を確認するのが恐ろしい。何も映っていないことを、ただ何もない風呂場の、時間の止まったような景色だけが延々と記録されていればいいと、今はそう思う。
部屋の中が異常に寒い。
月白貉