ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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恐怖のスレンダーマンはあなたの側にも、本当は恐いドキュメンタリー映画『BEWARE THE SLENDERMAN』。

「スレンダーマン」(The Slender Man、Slenderman)というものをご存知だろうか?

 

スレンダーマンとは、主にアメリカの都市伝説に登場する、背が異様に高くガリガリに痩せていて、異常に長い手足を持った男性の姿をしていると言われる、不気味な謎の存在である。

 

さらにその容姿の詳細を付け加えると、黒いスーツと白いワイシャツを身に纏い、背中から複数の触手が生えているとか、瞬間移動の能力(スレンダー・ウォーキング)を持っているとか、その姿を直接見た人間は死ぬとか、そんな風に噂されている。

 

Beware the Slenderman

image source : HBODocs - YouTube

 

ではそのスレンダーマンは何をするのかと言えば、実際のところは謎が多いのだが、一説によれば何かの理由でターゲットに決めた人間をストーキングしたり、捕まえてどこかに連れ去り拉致したり、相手に心的外傷を与えたり、あるいは殺してしまうなどと言われている。

 

特にターゲットにされやすいのが、幼い子供たちだと言われている。

 

Slenderman

image source : http://eluniversalprensa.com/

 

このスレンダーマンの噂はあることを切っ掛けに生み出され、その小さな噂の種が主にインターネット上で瞬く間に広がりはじめ、噂が噂を呼び、様々な言い伝えや伝説、果ては神話的な世界観へと広がりを見せたのである。

 

そしてついに、米国のケーブルテレビ放送局HBO(Home Box Office)にて、このスレンダーマンを扱ったドキュメンタリー映画が放送されることになった。

 

タイトルは『Beware the Slenderman』、そして監督はアイリーン・テイラー・ブロッドスキー(Irene Taylor Brodsky)、彼女は『Hear and Now』や『The Final Inch』などで知られるドキュメンタリー映画監督である。

 

HBODocsによる予告編が公開されているので、興味のある方は是非にもご覧いただきたい。

 

 

前述の通り、このスレンダーマンにはしっかりとした噂の発生源が存在していることは、あるいはご存じの方も多いかもしれない。

 

2009年6月8日、サムシング・オーフル(Something Awful: The Internet Makes You Stupid)というウェブサイトのフォーラムに、「Photoshopでパラノーマルな画像を創り出そう (create paranormal images through Photoshop)」という趣旨のスレッドが立てられた。

 

その2日後の6月10日、このフォーラムにビクター・サージ (Victor Surge)、本名エリック・クヌーゼン(Eric Knudsen)という利用者が、真っ黒い背広を着た長身で痩身の怪しげな人物が、複数の子供たちと一緒に写っている白黒の写真を投稿したのである。

 

最初の投稿時には写真だけであったのだが、その後ビクター・サージは子どもたちが誘拐される様子を見ていた目撃者か、あるいはその写真の撮影者が記したような文章をフォーラムに書き込み、写真に写っている謎の存在のことを「スレンダーマン(痩せた男)」と呼んだのである。

 

以下が実際に投稿された2枚の写真と、文章の内容である。

 

Slenderman

image source : Victor-Surge (Eric) - DeviantArt

 

"we didn't want to go, we didn't want to kill them, but its persistent silence and outstretched arms horrified and comforted us at the same time..." 1983, photographer unknown, presumed dead.

僕たちは行きたくなかったし、僕たちはみんなを殺したくなかったけれど、あいつは永遠に続く沈黙と腕を広げて、ぼくたちを怯えさせながらも、同時に慰めてくれた・・・

1983年、撮影者不明、撮影者は死亡したと推定される

 

Slenderman

image source : Victor-Surge (Eric) - DeviantArt

 

One of two recovered photographs from the Stirling City Library blaze. Notable for being taken the day which fourteen children vanished and for what is referred to as "The Slender Man". Deformities cited as film defects by officials. Fire at library occurred one week later. Actual photograph confiscated as evidence.

1986, photographer: Mary Thomas, missing since June 13th, 1986.

スターリング・シティ図書館の火災現場跡から回収された2枚の写真のうちの1枚。14人の子どもたちが失踪した当日に撮影されたものであり、「スレンダーマン」と称されるものが写っている。当局は、人物の奇形はフィルムの欠陥によるものだと述べている。図書館の火災は、その1週間後に発生した。証拠として押収された実際の写真。

1986年、撮影者メアリー・トーマス、1986年6月13日失踪

 

このことを切っ掛けとして、スレンダーマンの噂がインターネット上で悪質なウィルスのように著しい感染をはじめ、様々な姿に形を変えながら拡大してゆくことになる。

 

例えば有名な都市伝説サイト「CreepyPasta」(クリーピーパスタ)で様々な肉付けをされたり、前述のサムシング・オーフルというウェブサイトの利用者「ce gars」という人物の投稿から発展した『Marble Hornets』(マーブル・ホーネット)というタイトルのスレンダーマンに関連した映像作品がYouTubeに投稿されたりして、さらなる噂の伝播を巻き起こしている。

 

YouTubeの『Marble Hornets』という動画に関しては、映画学校に通う架空の学生アレックス・クレイリー (Alex Kralie)という人物が、個人として初めての本格的な映画作品『Marble Hornets』を製作しようとして撮影を進めていたのだが、その際に起こった何らかのトラブルの為に急遽撮影を中断してしまう。そのことを知った友人が、彼の撮影した映像を貰い受けて、内容を確認してゆくと・・・、そこには・・・、という、いわゆるファウンド・フッテージのスタイルで描かれている。

 

Marble Hornets

image source : Marble Hornets - YouTube

 

ファウンド・フッテージとは何かと言えば、例えば動画やフィルムの撮影者が行方不明になったなどという理由の為に長らく埋もれていた未公開映像が、第三者によって発見され公開に至った、あるいはその映像を編集して公開したという設定の作品である。

 

簡潔に言えば、発見された(found)映像(footage)ということであり、いわゆるモキュメンタリー(Mockumentary)の一種となる。

 

ファウンド・フッテージの走りと言われるのが、1980年公開のあの有名なイタリア映画、ルッジェロ・デオダートによる『食人族』(Cannibal Holocaust)である。

 

この映画の公開時の触れ込みは、衝撃的な内容のため焼却を命じられたドキュメンタリー映画の撮影フィルムが流出したというものであった。

 

そして、ファウンド・フッテージの手法を世に広めたのが、かの『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(The Blair Witch Project)であることは、皆さんのよく知るところだろうと思う。

 

関連記事全米を震撼させた森の魔女伝説、再び。-『ブレア・ウィッチ』(Blair Witch)-

 

この映画は約6万ドルという超低予算で製作されたインディペンデント映画にも関わらず、全米興行収入がなんと1億4053万ドル、そして全世界興行収入に至っては2億4863万ドルという大ヒットを記録している。それ以降、この手法を使った映画は現在でも実に数多く排出され続けており、まあ中には大失敗に終わっているものも少なからず見受けられるが・・・、有名どころを幾つかあげるとすれば、白石晃士の『ノロイ』(The Curse)、マット・リーヴス(Matt Reeves)の『クローバーフィールド/HAKAISHA』(Cloverfield)、ジャウマ・バラゲロ(Jaume Balagueró)の『REC/レック』([Rec])などは、“まさに”な作品であると言えよう。

 

ちなみに『Marble Hornets』に関して言えば、2013年に映画化の話が持ち上がっていたそうで、ギレルモ・デル・トロの『パンズ・ラビリンス』(El Laberinto del fauno)でのパン役およびペイルマン役や、同じくデル・トロの『クリムゾン・ピーク』(Crimson Peak)での幽霊役で知られる、パントマイム俳優のダグ・ジョーンズ(Doug Jones)が、おそらくはスレンダーマン役として出演者の候補にあがっていたようなのだが、2017年に公開予定らしいということ以外、プロジェクトの進行具合は不明である。

 

YouTube版の『Marble Hornets』シリーズについては、現時点で実に87本という膨大な映像が投稿されていて、1本あたりは1分程度のものから、長くても15分程、合計するとなかなかの長さになるが、もし興味のある方は、あるいは暇を持て余している方は、一気に鑑賞してみてはいかがだろうか。ちなみに日本語字幕も付けられているので。

 

 

さらにこのスレンダーマンに関しては、その神話的あるいは民話的側面について多くの学者が言及しており、南デンマーク大学 (University of Southern Denmark) のトム・ペティット (Tom Pettitt) 教授は、スレンダーマンは現代における「グーテンベルグを括弧に入れる (Gutenberg Parenthesis)」一例であると述べている。

 

つまり印刷術の発明からウェブの普及に至るまで続いていた、話や情報が直説的メディアに封じられていた状態から、より古い時代から存在する原始的な形態で物語られ、例えばキャンプファイアーの場における話のように、同じ話が何度も何度も語りなおされ、異なる語り手によって再解釈あるいは再発信されてゆきながら、時とともに拡大し成長していくといった形へと回帰しているのだと、述べているそうである。

 

しかし、2014年5月31日、スレンダーマンが現実の世界に影を落とす。

 

ご存じの方も多いかと思うが、米国ウィスコンシン州のウォキショー郡で、ふたりの12歳の少女たちが、同じく12歳の同級生を森に誘い込み、刃物で19回に渡ってメッタ刺しにするという事件が起こる。

 

尋問を受けた少女たちは、「CreepyPasta」で読んだスレンダーマンの「手下」になるための第一歩として、殺人を犯そうとしたのだと話したという。

 

また少女のひとりは、スレンダーマンが自分を監視しており、彼女の心を読んだり、瞬間移動して自分のもとに来たりするのだと話していたとも言われる。

 

この事件、たまたま現場を自転車で通りかかった人が止めに入ったため、殺人事件には至らなかったが、ふたりの少女がもし成人として扱われることになれば、最大で懲役65年の刑に処される可能性があるという。

 

そして、今回ご紹介したHBOで放送されるドキュメンタリー映画『Beware the Slenderman』は、実はこの少女たちに、あるいは彼女たちの起こした事件にメインの焦点があてられている作品なのである。

 

Slenderman

image source : Blastr

 

米国での放送日は2017年1月23日、日本でもいずれどこかのチャンネルで放送される機会があるかも知れないし、インターネット上での視聴が可能になるかもしれない。あるいはソフト化されるかもしれないので、その期間に放送区域に滞在する予定のない方は、しばらくお待ちいただきたい。

 

最後に余談になるが、大人気ゲーム『Minecraft』(マインクラフト)に登場するエンダーマン (Enderman)は、このスレンダーマンがモデルになっているらしいということ、ここであえて言わずとも誰もが知っていることだったかもしれないが、念のためにこっそりと囁いておく。

 

では皆さんも、近所に出没するかもしれないスレンダーマンには、十分ご用心いただきたい。

 

Beware the Slenderman...

 

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