最先端をゆく殺人現場のファッション写真、『High Fashion Crime Scenes』。
アメリカ映画などを観ていると、特に犯罪を描いた作品などで、鑑識の捜査官が殺人現場の写真を撮影しているシーンを見かけることがある。
そして時には、劇中にその殺人現場の写真自体が登場して、例えば現場写真に隠された秘密を解き明かす、なんていうシーンなどもよくありがちである。
今ふと思い付くものだと、デヴィッド・フィンチャーの『セブン』(Se7en)では、七つの大罪に模されて巻き起こる殺人事件の現場写真が、劇中に多く登場していたように記憶している。
ちなみにぼくの古い友人は警察官をしており、一時期鑑識関連の仕事についていたようで、頻繁に死体を見ていたと話していたことを思い出す。半ば腐敗した水死体などを見た後には、はじめの頃は食事が喉を通らなくなったと言っていた。
さて、アメリカの女性写真家メラニー・パレン(Melanie Pullen)という人物が手がける作品に『High Fashion Crime Scenes』というシリーズものがある。
ハイ・ファッション、すなわち最先端をゆく流行の、犯罪シーンというわけである。
ニューヨーク警察の犯罪写真のアーカイブなどに触発された彼女は、ファッション写真と、殺人の現場写真あるいは法医学写真の融合を、自身の写真作品として展開しているのである。
ちなみに、写真のモデルになっている女性たちはもちろん生きているのだが、彼女たちが身につけているのがいわゆるハイ・ファッションなのである。
最先端をゆく殺人現場のファッション写真。
なんとも怪しげな試みであるが、なかなか興味深いので、その一部をご紹介したい。
列車が走り抜ける駅のホームで殺されている女性。頭から血を流しているところを見ると、鈍器で殴られたのではないのかと予想するが、なにやら美しく目に映る。それこそが殺人現場のファッション写真たる所以であろう。
鮮やかな緑の上に黄色が映える。紫色の花はなんだろうか。ファッション・ブランドにはうといので、どこのものかはわからないが、美しい殺人現場である。パッと見る限りでは死因は不明。口から血を流しているから、毒殺の後に遺棄されたのだろうか。
背景に観覧車が光り輝く海辺、遊園地沿いの港だろうか。どうやら雨が降っていたようである。死因は不明。雨に濡れた地面に死体が映り込んでいる様が妖艶である。
草原の中の樽に死体が入れられている。足の色が尋常ではない、まあ死んでいるからであるが。樽の中に隠れている部分は、もしかしたら切断されていて、ないかもしれない。奇妙な美しさを感じる。
首吊り、やはりこれも首吊りに見せかけられているのだろう。窓から差し込む光が室内の塵を照らし出す様と死体とのコントラストが美しい一枚である。
こうやって見てみると、たしかにハイ・ファッション・クライムであるなあと感じる。そして、まあ鑑賞の仕方は人それぞれだと思うのだが、ぼく個人としては、写真の美しさもありつつ、その殺人の背景にある物語をついつい考えてしまう。あるいはファッションに精通した人が見れば、また違った楽しみ方が出来る作品なのではないかと思う。
この『High Fashion Crime Scenes』のオフィシャルなウェブサイトでは、他にも多くの殺人現場の写真が鑑賞可能である。
またもしこのフルバージョンに興味が湧いた方は、写真集を購入してじっくり鑑賞していただきたい。Amazon.co.jpでも購入可能なので、詳細は以下にリンクを記しておく。
実際の現場写真が如何なるものかは知らないが、ちょっと興味が湧いてきて、見てみたくなってしまうのが、人間の悲しい性である。
月白貉