ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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それではみなさん、おやすみなさい。

時々思い出す情景がある。

 

エンターテイメント系のインターネット・ポータルを運営する会社に勤めていた頃のこと、毎日毎日仕事が忙し過ぎて、気が付けばいつも終電がなくなる時間、もう家には帰れないからと、仲のよい会社の同僚とその時間から毎晩のように酒を飲みにいって、帰りはいつも明け方のタクシー。

 

そんなある日、朝の四時だか五時だかの環状線を走るタクシーの車内で、ラジオから流れてきた曲がある。

 

テンションの低い女性ナビゲーターが、なんだか消え行くような掠れる声で紹介したのは『ラブ・ミーテンダー』。

 

「さて、きょう最後の曲となりました、エルヴィス・プレスリーで、ラブ・ミー・テンダー。それではみなさん、おやすみなさい。」

 

それではみなさん、おやすみなさい。

 

真夜中でも明け方でも、何かがきらきらと輝いている東京の街。一見夢のようなきらめきを見せているが、よく見ればあまり美しくはない景色。そんな薄汚れた走馬灯の光みたいなものが流れゆく車窓を、なんだかきちんと見つめられずに、タクシーのシートに埋もれて聞いていたその曲のことを、いまでも覚えている。

 

明け方の時間帯にも関わらず、車で溢れかえっている渋滞の環状線

 

あの時、ぼくを乗せたタクシーは、いったいどこへ向かっていたんだろう。

 

あの日のことを思い出すと、なぜか心臓が握りつぶされる。

 

Love me tender Love me sweet Never let me go.

 

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月白貉