動物霊信仰の系譜 - キツネにならきっとわかる憑物の話 -〚 第拾話 〛
新潟県高田市のお晴見祭り、福島県南会津郡の鼬寄せや犬寄せ、愛知県三河の西京鼠、神奈川県川崎市のトウガミなど、動物の神霊に頼る俗信は日本各地に多く見られる。
古来より、神霊を呼び寄せる神懸かりというものは、神職や巫女、そして山伏などによって行われてきたことで、それが今日では社寺の恒例行事になっているところも少なくない。
一方で、霊寄せとか口寄せとかいって、動物霊ではなく死者の霊を呼び出すものも全国的にみられる。しかもこういったことは、執り行う側としては決して忌むべきものとは考えられておらず、またそれが神霊ともなれば、むしろ乗童(のりわら)に立つことを名誉にさえ思っていた風がいまも名残として残っている。
しかしこれがひとたび、人間の霊ではなく、狐や狸や蛇の類となると、狐憑きだとか狸憑きだとか、あるいはトウビョウ憑きだとして忌まわしいことになってしまう。ただ古くに遡ればやはり、このような狐や蛇は本来はおぞましいものではなく、人に知りえぬ予知能力を具有する神妙なものという考えが強かったはずで、神の使いだと見られたり、果ては神そのものとして祭られるに至っている場合もある。すなわち動物霊も神聖なものとして扱われていた。
そこへ大陸からある種の俗信、つまりは蠱道のようなものが入ってくる。これは最初から特定の術者によるものであっただけに、これを悪用して人を脅迫するようなことも出てきた。そうなるとこの術をなす行者が人に疎まれ、恐れられ、やがては権力によって弾圧されることもしばしば出てくるようになった。
石塚尊俊は、おそらくはこうした特殊行者の道統を継承するものが、徐々にその勢いを弱めつつ、そして世間から問題にされることも少なくなりつつ、細々と残留したものが今日の希少地帯における憑物筋であり、これに対して、近世のある時期にそういったことに対する恐怖心が増幅され、通常の農漁民間の社会緊張と絡んだために生じた被害者が、多数地帯におけるいわれなき憑物筋であろうと、そう述べている。
次回へ続く
月白貉