ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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四日『酔いどれ幽霊談義』- 八月怪談

「よくさあ、テレビの心霊番組なんかで、壁から女が出てきたとか、天井から子供の顔だけが覗いてたとかいう話が出てくるけどさ、幽霊って、そういう物質を通り抜けちゃうものなの?」 

 

四日『酔いどれ幽霊談義』- 八月怪談 -

 

野田は酒を飲みだすと、いつも決まって幽霊とか妖怪とか伝説とか、そういう類の話を始めるのが癖だった。

 

「さあ・・・、おれ幽霊なんか見たことないし、霊感もまったくないし、まだ死んだことないしな。でもよくそういう話は出てくるな。」

 

「片やさ、真夜中にドアをノックするとかさ、足音が聞こえるとかさ、物質に触っちゃってるだろ、あれおかしくないの?」

 

「う〜ん・・・、確かに、言われてみればそうだな。」

 

「切り替えられるのかな、能力のモードをさ、例えば接触モードとか、物質透過モードとか、それだったらなんかすげえなあ、幽霊。」

 

「なんかそれってもはや、悪魔の実の能力者とか、X-MENとかの域だな・・・。」

 

「前からそれずっと気になっててさ、あの幽霊って呼ばれてるものが人間が死んだ後の形態だったとして、要は物質的な肉体を脱ぎ捨てた先の、次の段階の生だとするじゃない。いろんな宗教ではさ、その後には天国だったり地獄だったり、別世界に強制的に移動させられるとか言うじゃない。あとは仏教なんかだと成仏したり、輪廻転生ってのもあるけど。テレビの心霊番組とかで言ってる幽霊ってのは、なんか怨念が残ってとか、死んだことに気が付かなくてとかって、この世界に残っちゃってる特別なケースだって言うじゃない。でもさあ、実はさあ、みんな残ってるんじゃないの?どこにも行かないでさ、天国にも地獄にも行かないで、地球にいるんじゃないの?死なんてものは実はなくてさ、みんなずっと地球にいるんじゃないのかな。それでさ、今のおれたちみたいな人間の次の段階は、あの幽霊みたいなやつでさ、制御がかかってる能力が開放されて、壁すり抜けられるようになるとか。」

 

「うん、一理ある気はする、なんとなく。昆虫が変態して、まったく姿を変えて、違う能力を手に入れるみたいなことだろ。飛んだり、毒針攻撃が出来るようになったり、そういうことだろ。でも幽霊さ、見える人と見えない人、いるじゃない。」

 

「そうそう、たぶんそれはさ、いまのおれたちの段階の中にもいろいろ能力値があって、まあこれは普通に霊能力とか霊感とか言われてるけどさ、そういう人の能力を持ってすれば見えるんじゃないの?つまり、次に段階の能力の中には透明化モードってのがある。体の透明度を変えられるって能力。デフォルトは透明度ヒャクパー。でもそれを見ることが出来る能力も存在する。なんかサーチモードみたいなやつ。次の段階に行かなくても、実はすでに今の段階で人間はそのすべての能力値は潜在的に持ってるんだけど、まだ普通の人にはそのロックが解除できない。でもまれにそれが解除されちゃってる人とか、特殊な訓練によって解除しちゃった人もいるわけ。」

 

「なるほどね。まあ、ってことは野田の説で行くとさ、死がなくて、みんな地球に残っちゃうんだから、どんどん増えていくよな。すごい数になっちゃうな、地球上の幽霊。」

 

「そうだなあ・・・そう考えるとちょっと違う気がするなあ。う〜ん・・・、あっ、わかった、それ解決できるよ。子どもだよ、いまのこの肉体を持った人間の段階では子どもを産むでしょ。次の段階か、もしくはそのもっと先の段階かもしれないけど、その段階の存在はさ、人間の産んだ子どもの中に入る能力が解放されるんだよ。」

 

「どういうこと?」

 

チベット仏教で言うところの輪廻転生みたいなシステム。この人間の肉体はさ、生体型のボディースーツなんだよ。そのボディースーツを、幽霊みたいなものが装着して、人間として生きている。生まれたての赤ん坊は、それのまだ中身が入っていない状態、その段階がどこかはわかんないけど、たぶん形が形成されるお腹の中の時かな。つまり最初は人間にまだなっていない、生体型ボディスーツの小さいやつなだけ。そこにさ、幽霊みたいなものになった存在は入る能力を持ってる。よくあるじゃない、霊が憑きましたとか。あれはさ、すでに中身が入っているボディースーツの中に、無理矢理に入ってくる奴がいる、そういう能力を持ってるからね。でも厳密に言えば、ちゃんと入れるのはまだ中身が空っぽの赤ん坊の状態のやつだけなんだよ。」

 

「なるほど。」

 

「それで、その赤ん坊に入って、それが初めて人間になる。でもそのボディースーツに入ることによって開放されてた能力も記憶とかもすべてに再度ロックが掛かる。ボディースーツにそういう機能が付いてるのかもしれない、パワー制御装置みたいに。で、そこからまた成長して、大人になって、年老いて、ボディースーツの耐久年数が過ぎて壊れちゃう時が来るから、外に出て別のボディースーツ探さなきゃいけなくなる。その繰り返しをしてるから、地球上の幽霊の絶対数は、変わらないんじゃない?」

 

「なるほどね、酒飲んでるのに、いろいろよく考えられるね。あっ、酒飲んでるからだな、きっと。」 

 

「でもさあ、昆虫とかはどうなってんだろう・・・同じなのかなあ、人間と・・・、あっ、すいません、カルアミルクひとつ!」

 

お題「怪談」

 

 

 

 

月白貉