ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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七色ダイヤモンド

きのこを探して苔の海原を歩いていると、地元の中学校の課外授業中らしい団体がいて、全員がたいそうな高性能デジタル一眼レフカメラを持たされて写真撮影会のようなことをしていた。

 

引率の若い女性の教師が、ずいぶんと耳障りの悪い言葉遣いで「いまさ〜、撮影会してんだよ。」と、おそらくはたまたま電話のあった友人らしい相手と携帯電話で私用の雑談話をしていたので、たぶん何かを目的とした撮影会なんだろうが、どんな趣旨のものなのかはわからなかった。

 

ざっとみても四五十人ほどの生徒がいたが、ほぼ全員がひとりに一台、カメラを持たされているようだった。そしてぼくがきのこの撮影の為に携帯していた一眼レフカメラよりも、ずいぶん高性能なカメラで、もちろんそうなると値段だって数倍はするようなものだった。

 

しばらくしてからふと気が付くと、ぼくの近くをカメラを首から下げた女子三人組がウロウロしていて、けれど写真などまったく撮らずに、大きく育ったコツブタケを次から次へと足で踏み潰し続けていたので声をかけた。

 

「それはきのこでさ、中を割ると鉱石の結晶のような不思議な模様があっておもしろいんだよ。」

 

そう言って、携帯していた小刀で中を割ってみせたが、三人とも怪訝な顔を浮かべながら無言で去っていった。

 

ぼくがあの子たちくらいの年の頃に、あんなにもコミュニケーション能力が欠落していただろうかと、粉々に踏み潰されたコツブタケに問いかけてみた。

 

そしてもうひとつ、再びコツブタケに問いかけた。まったく目的の明確ではない中学生の課外授業に、あんなにも高級な一眼レフカメラが、果たして必要だろうか、と。

 

謙虚なコツブタケは黙ったまま何も言わなかったが、七色をしたダイヤモンドみたいなツバを吐き出してから、土に還っていった。

 

七色ダイヤモンド

 

 

 

 

月白貉