亡霊ブックシェルフ
時々、本棚をひっくり返して、昔買った本を読み返す。
本当にお金のない時期があって、そのために売り払ってしまった本もたくさんある。
その亡霊みたいなものも、少なからず本棚には漂っている。
いくら新しい本棚に買い替えても、そういうものはずっとついてくる。その中には、ぼくにとって大事な本もあったかもしれない。その時には気付かない。そういうことは往々にしてあることだ。そしてそれは、いまどうこう言っても仕方のないことだ。どうしても手放したくなかった本が、おそらくいまでも残っている。選ばれた本は少しだけれど、そういう本が積み上げられているのが、いまのぼくの本棚だ。
ほとんどは15年前とか、20年前とか、そのくらいに買った本だ。なにげなしに本を開くと、まるで子ども向けの飛び出す絵本みたいに、その頃のぼくのまわりの情景が浮き上がってくる。
きれいな景色も、汚れた景色も。汗とか涙みたいなものだって、そこにはある。腐った食べ残しや、掃除しきれなかったゴミカスや、色あせた血の痕や、乾燥した汚物や、そういったものだってある。
人は、なかなか幸せになんかなれない。少なくとも生きているうちには、なれないように思う。
生きるってことは、幸せとか不幸せとかそういうことじゃなく、たとえば本棚に必死で欲しい本を集めて、その本を眺めて、その本の匂いをかいで、なめたりほおずりしたりする日々なんじゃないかと思う。
でもその集めた本の多くは時に、売り払われたり、焼かれたり捨てられたりする。自分が自らすることもあれば、誰かにされることもある。
本棚の中には、そんなすべての事柄が詰まっているような気がしてならない。
月白貉