狼ノスタルジア
おじいちゃんのことを思い出した。
ぼくは「じじ」と呼んでいた。
じじは、自分の子どもたちには「パパさん」と呼ばれていた。
じじはずいぶんと嫌われ者だった。だれひとり味方のいない、痩せこけた狼みたいだった。じじはなんであんなにみんなから嫌われてるのか、なんとなくはわかっていたけれど、本質的な部分はいままでぼくにはよくわからなかった。
でも、この頃わかるような気がする。
「草の長さ三寸あれば狼は身を隠すと伝へり。草木の色の移り行くにつれて、狼の毛の色も季節ごとに変わりて行くものなり。」
でも、じじは身を隠すことをしなかった。
季節に応じて自らの毛の色が変わることはなかった。
だからいつだって、嫌われ者だったんだ。
月白貉