池袋ロマンティシズム
20代のある時期、ぼくは毎日毎日、本当に同じことを繰り返して生活していた。
朝七時からプールで二キロ泳ぎ、その後洋画のDVDを売る店でアルバイトとして働き、 仕事が終わると家に帰ってビールとワインを飲み、腹が膨れると映画を一本観て眠りについた。
「トゥルー・ロマンス」のクリスチャン・スレーターには手が届かなかったが、ある部分においてはあんな日々だった気がする。
毎日同じことを繰り返しているのに、都度都度おかしな事件には巻き込まれる日々。
賢く暮らすことが必ずしもいいとはいえない。もっと馬鹿みたいに暮らしていた方が、 幸せなことだってある。
そんなあの頃の日々に、少し憧れる、今の日々。
あの頃、家の近所でセルジュ・ゲンスブールに瓜二つの老人と、よく道ですれ違った。
時々、上品なマダムと腕を組んで歩いていたり、 近所のカフェーで数人のマダムと談笑していたりする場面にも出会したが、すれ違うと独特の臭気を放っていて、 ホームレスのような雰囲気も漂わせていた。 いちど尾行してみようとも思ったが、謎は謎のままにしておいたほうが、幸せなこともある。
彼はいつも、とても幸せそうな顔をしていたから。
月白貉