ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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「一番好きな映画は何?」という未来永劫繰り返されるであろう愚問

先日、二十年ぶりくらいに、未だ最後まで鑑賞し切ることのできなかったアンドレイ・タルコフスキーの作品に再び挑み、最後まで眠りにつくことなく鑑賞し終えた。

 

ちなみにその作品は「ノスタルジア」(Nostalghia)であるが。

 

ノスタルジア [Blu-ray]

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評価良し悪し云々ではなく、なにより楽しめたし、いい映画だなあと純粋な満足感がおとずれた。

 

若かりし頃は、観だすとすぐに眠くなって気絶してしまう難関タルコフスキーの映画が、ついに我が心に染み渡り、かつ楽しみながら観切れる段階に入ったのかと思い、個人的にはずいぶんと満足し、さらには改めてタルコフスキーの映画の素晴らしさを痛感させられた。

 

 でも、ぼくの好きな映画監督は、アンドレイ・タルコフスキーではない。

 

時々、なんとなく出会ったあまり見知っていない初対面の誰かと、世間話とかあるいは他愛もない話をしなければならない時空が発生した際によく聞かれるもので、喧嘩上等さながらの、あるいは意思に反したお見合いシチュエーションばりばりの、暴力的に飛び出してくる空間破壊よろしくの王道問答、

 

「ご趣味は?」

 

というものがある。

 

まあそんな問答は大いに嫌いなのだが、自称紳士としては、ツバを吐いて質問者の頬をステッキで叩くわけにもいかないので、仕方がないから正直に答える。

 

「映画なんかわりに、好きです。」

 

そうすると相手は、

 

「あら、それだったら映画通ね、あなたが一番好きな映画を私に教えて下さらないかしら?」

 

という、ルールおよび銃刀法違反の刃渡り3mにも及ぶ、鈍く錆びついた禍々しい凶器を振り下ろしてくるのが常である。

 

皆さんも、もちろんそんな経験をお持ちだと思う。

 

昔はその凶器に怯えてしまって、好きと言ってしかるべき映画作品を声が出なくなるまで無尽蔵に口から四五十は吐き出して息絶えていたが、

 

大人になった昨今では、

 

「好きな映画は星の数ほどありますのでナンバーワンは選別できかねますが、好きな映画監督なら、今記憶にある数人をお教えすることは、可能でございます。」

 

と、お上品にそう答えるようにしている。

 

まあ簡潔に言えば、お前の趣味が何だか知らねえけどよ、初対面の人間に一番なんてものを聞くのは野暮だぜ、おとといきやがれ!と、そう言いたいのである。

 

まあ、それはさておき、その時に名前を上げる映画監督は、誰かと言えば、

 

スタンリー・キューブリックデヴィッド・リンチジョン・カーペンターテリー・ギリアム、そのあたりがまあ、ぼくの敬愛する、そして言わば、おすすめの映画監督であるだろう。

 

By Stanley Kubrick, photographer; [Public domain, Public domain or Public domain], via Wikimedia Commons

image source : By Stanley Kubrick, photographer; [Public domain, Public domain or Public domain], via Wikimedia Commons

 

あげようと思えば、「一番好きな映画」が選べないのと同じ道理で、ほんとうはもっともっとたくさんの素晴らしい映画監督がいるけれども、無意識に即座に出てくるのは、ギュッと絞れる好みのおすすめメニューは、まあこれかなあ、という、そんなところであろう。

 

たとえば自分が街で流行りの食堂で働いていて、見知らぬ客から「ここのおすすめはなんだね?」と唐突に聞かれたとしよう。もちろんすべて美味しいものばかりで、自信を持ってすべてをすすめられる環境だとしてもだ、昼飯時まっただ中の大忙しの時間に、ご丁寧にメニューの端から端まで読み上げて、ひとつひとつ能書きをたれている暇などないのだとしたら、瞬時にこう答えるだろう。

 

「もちろん唐揚げ定食ですよ、あとは生姜焼き定食、うちはこれに尽きます!」

 

おすすめってそういうことでしょ?

 

例えが悪かったかもしれないけれど、そういうこと、まあこのへんでね。

 

トピック「映画監督」

 

 

 

 

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