ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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真冬の怪談 - 私的金縛り考 -

夏の暑さを忘れるために怖い話をするってえのが、まあ怪談の趣旨かどうかはしらないけれど、じゃあ冬の怪談は寒さが増して凍え死ぬだろうかってなわけで、久方ぶりにちょっと怖いことがあった。

 

「金縛りにあった!金縛りにあった!」ってよく言うけれど、ぼくは世間で言うような金縛りにあったことがない。

 

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そのかわりに、金縛りらしいけれど、もうちょっと違う金縛りのようなものにあうことがある。眠っていてふと気が付くと体が動かなくなっていて、目だけ動かして部屋の中を見回すと、血まみれのババアだとか、首が伸びた女だとか、体が膨れた赤ん坊だとかが天井から降ってきて体に覆いかぶさっていて、どうにもこうにも体が動かないまま恐怖で気絶して、起きたら朝だったとかっていうのが、まあ典型的な金縛りだろうかと思うけれど※1

 

※1:当社比

 

ぼくのあう金縛りはちょっと違っていて、空間がおかしな具合によじれるのだ。

 

赤ん坊の鳴き声が聞こえてきて、はてなんだろうなあとおもってウトウトしていると急激に腹痛が始まる。のたうち回るほど激しい腹痛ではなく、腹を抱えてイテテテってぐらいな腹痛が続く。腐った卵とか、足の早い魚なんか夕食には食べていないから、何が腹痛の原因だろうかなあとボヤボヤ考えながら布団でウダウダしてると、部屋の中がやけに明るいことに気が付く。もちろん電気をつけっぱなしで眠る気遣いはないので、きちんと消灯済みだ。じゃあなんでこんなに明るいんだろうと思いだして、もうちょっとだけ目を覚まして部屋の中を見渡す。

 

腹痛はまだ続いている。

 

すると、横になっているベッドの長さがおかしい。そしてベッドの柔らかさがおかしいことに気が付く。ぼくの足先のベッドの端がとんでもなく向こうの方まで長くなっていて、ちょっと動くと表面が波のようにグニャグニャと揺れ動く。もちろんベッドに合わせて部屋も長くなっている。あれっとおもって起き上がろうとすると、視界がビリビリと痺れ出して起き上がることが出来ない。

 

赤ん坊の鳴き声は止んでいるが、枕元になにか「キキキキィィィ」といって笑ってぼくの頭を押さえつけているものがいる。動かせない頭を必死で動かそうとしていると、見上げる天井がこんにゃくのようにグネグネ動いていて、寝室の左右の壁がすごいスピードで遠ざかってゆく。部屋が何十畳もある広さになっている。部屋の中の空間のいろいろなものの大きさが、巨大になったり、逆に豆粒のようになったりしている。広がった部屋が急激に縮まってきたりする。その伸縮するような空間のなかに、訳の分からないいろいろなものが入ってきて、歩きまわっている動物の息遣いのようなものが感じられて、すごく恐ろしい。ぼくの体に触れてくるものもいる。

 

そういうことがずいぶん長い時間続いて、あまりにも怖すぎるので自ら意識を閉じると、朝になっている。

 

 

言葉で説明するのがとても難しいのだが、単に幽霊が!とかではないところがミソである。

 

いままでこの話をした友人の中にひとりだけ、「それ知ってる。」と言った人がいたけれど。

 

 

 

 

月白貉