2万7千時間後には全世界が同化される -『遊星からの物体X』(John Carpenter's The Thing)
地球外生命体は果たしているのだろうか。
そういったことに対して専門的な知識をまったく持たないズブの素人のぼくの見解を述べよう。
「そりゃあ、もちろんいるでしょうよ。」
「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」
そう言ったのは、フランスの小説家であるジュール・ヴェルヌである。彼のことをあえてここで説明しなくとも、その名は世界中に轟いているだろう。イギリスのハーバート・ジョージ・ウェルズと共に、SF(サイエンス・フィクション)の父と呼ばれる人物である。
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その彼の言葉のフランス語の原文はと言えば以下である。
Tout ce qu'un homme est capable d'imaginer, d'autres hommes seront capables de le réaliser.
ぼくは学校でフランス語を選考したことはなくフランス語にはまったく精通していないので、「ボンジュール」と「コマンタレブー」と、あとは「メルシーボークー」程度しか喋ったことはないが、いちおうフランス人と会話をして通じていたので発音はよかったであろう。
さて、この言葉はヴェルヌが「海底二万里」執筆中に父親に当てた手紙に記されていた言葉だという話は有名であるが、実際にはその手紙は発見されてはいない。その為、この言葉はヴェルヌの伝記を書いたアロット・ド・ラ・フュイによるフィクションであるという説が有力とされている。ちなみにアロット・ド・ラ・フュイはヴェルヌの姪に当たる人物である。
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偉人の名言というものは往々にして実際に本人が述べたものではないことのほうがずいぶんと多い気がする、そう感じるのはぼくだけではないであろう。
少し前までの未発達なメディアの中では誰かの言葉をそれらしく捏造することなど容易かったはずである(メディアが発達しすぎたための捏造も大いにあるが)。もちろんきちんと本人が述べている名言もあるのは事実である。ただ如何に本人が書いている、あるいは発言しているものであっても、多くの人々に引用されている間に、その意味合いが著しく損なわれているものもよく目にする。
例えばイギリスの作家サー・アーサー・コナン・ドイルのとある名言がある。ここでは具体的なその言葉についての言及はあえて飛ばすが、ぼくはその言葉を彼のとある文献に目を通していた時、文章中にたまたま見つけたのである。ちなみにそれは「シャーロック・ホームズ」ではないので、あしからず。さて、その時にはそれが名言などとは感じなかったが、その本の内容からすればもちろん重要な事を述べている下りではあった。しかし、その後に某メディアにその言葉が引用されており、その扱い方が実際に彼が言わんとしている内容とは大きくかけ離れたものに置き換えられて紹介されていた。ただただその短い文節だけをピックアップして教訓めいた話が付加されていたのだ。それは当時なかなかの視聴率を誇る、偉人達を扱ったとあるテレビ番組だったのだが、それを観た人たちは当然間違った解釈を引きずって生きてゆくことになるだろう。
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結局のところ、多くの人々は名言の“音”だけに惑わされて、その本質に目を向けることを忘れてしまっているのだ。
誰かの名言というものは何も自らの知識量を誇示するためのアクセサリーではなくコレクションでもない。自らに植え付ける小さな種のようなものであって、さらには誰かの名言を集める暇があるのであれば、自らが真実だと思う事柄を自身を持って発言すればよいのである。それが名言の名言たる所以であろう。
いっきに話が明後日の方向に走りだしたので軌道修正を。
さて、ヴェルヌが言ったか言わなかったかは置いておいて、「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」というのはなかなかおもしろい発想であって、それを踏まえて地球外生命体のことに関して考えてみると、じゃあやっぱりいるだろうなあと、ずいぶんいい加減な憶測を展開してみる。
映画というものは大いに想像力を基礎として創りあげられている。そしてその映画の中には多くの地球外生命体が描かれている。もちろんその幅は広く、じつにシリアスなものからアホみたいにハチャメチャなものまで。ただそれはすべて人間が想像したものであって(近年では科学的根拠などに基づいているとされるものもあるが、けっきょく科学も想像の域であろう、一体科学がなんだと言うんだ!)、であれば人間が実現しなくともすでに存在する可能性はあるのではなかろうかという筋である。
ここで大いにそのことについて書いていると、自らが所蔵する地球外生命体映画ソフトのことを書くことなく終わってしまうので、無理矢理に今回の映画の話に移りたいと思う。
「プレデター」、そして「エイリアン」という地球外生命体の王道をゆるく取り上げてきて、さてお次はどうしたものかとダンボールを漁っていて出てきたのがこれである。
小学生の頃から何度観返したかわからないほどの、我が生涯の伴侶的名作「遊星からの物体X」である。
「遊星からの物体X」は1982年に公開されたアメリカのSF映画で、原題を「The Thing」あるいは「John Carpenter's The Thing」という。これは1951年に公開された「遊星よりの物体X」という古典SFのリメイクにあたる作品なのであるが、ぼくは元になっている映画に関しては未鑑賞であるため、「遊星よりの物体X」については言及を差し控える。
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さていつものように、まだこの映画を観ていない方にも敬意を払い、内容を厚いベールに包みつつ簡単にどんな映画かを説明すると、
アメリカの南極観測隊の基地に現れた正体不明の地球外生命体と、その基地の隊員たちとのいざこざの話である。
どうであろうか、この説明で今すぐにでも観たくてたまらなくなったこと請け合いだと思う。
ぼく自身はこの映画を映画館ではなく友だちの家の居間で鑑賞した。当時、まだビデオレンタルなるものがはじまったばかりの頃で、今から比べると一本あたりのレンタル価格も高く、当時小学生だったぼくはなかなか自分で映画を借りに行くことなど出来なかった。そんなある日、親友のシミズくんからこんなお誘いを受けた。
「昨日さ、兄ちゃんがビデオレンタルで禁断のホラー映画借りてきたから、きょう一緒に観ようぜ!」
その日の午後のことは今でもよく覚えている。部屋のカーテンをすべて閉じて、電気もすべて消して、あったかいコタツに潜り込みながらシミズくんと鑑賞した南極での恐ろし出来事。南極ではこんなことが起こっているのかと、すさまじい衝撃を受けながらテレビ画面に釘付けになっていると、学校から帰宅してきたけっこう歳の離れたシミズくんの兄が部屋に入ってきて「勝手に観てんじゃねえよっ!!!」とふたりともこっ酷く怒鳴り飛ばされ、映画半ばにして泣く泣く部屋を追い出されたのだった。シミズくんは兄に頭を叩かれて本当にちょっと泣いていた。
シミズくんはなかなかの巨体を誇っており、軽く見積もっても簡単に涙をながすような力量ではないのだが、シミズくんを「ジャイアン」だと仮定すると、シミズくんの年上の兄は言うなれば顔も体も「ゴジラ」であったので、もちろんぼくは指をくわえて見ているしかなかった。
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けっきょくその後、シミズくんの家での鑑賞会はゴジラの襲来によってなし崩し的に終了し、映画途中で放り出され最後まで欲求を満たせなかったぼくは、親にお願いして後日改めてビデオレンタル店で借りてきた「遊星からの物体X」を心ゆくまで鑑賞したのである。
監督はご存知の通り我が尊敬する鬼才ジョン・カーペンター、そして主演はジョン・カーペンター映画ではお馴染みのカート・ラッセルである。
脇を固める俳優陣もなかなか豪華(個人的見解ではあるが)で、「コクーン」シリーズのウィルフォード・ブリムリー、なんだかんだとよく顔を目にするドナルド・モファット、この作品で俳優デビューを果たしたキース・デイヴィッド、最近ではデヴィッド・フィンチャーの「ゴーン・ガール」にも出演していたデヴィッド・クレノンなどなど、個性豊かな俳優が出演している。
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また音楽は、カーペンター自らが担当するとおもいきや、イタリアの巨匠エンニオ・モリコーネが担当している。
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近年になってからこの映画の前日譚を描いた「遊星からの物体X ファーストコンタクト」なる映画が製作されているが、なんだかリメイクまがいのつまらなそうな雰囲気がバリバリであったため、ぼくはまだ未鑑賞である。
さて、この映画を語るにあたってひとつ、ぼくなりの重要なポイントがある。この映画はアメリカの小説家ジョン・W・キャンベルによる「影が行く」、原題を「Who Goes There?」という小説を原作として製作されている。残念ながらぼく自身はその小説を未読のため、映画における表現や描写などを比較考察することは叶わない。ただその原作とは別に、カーペンターがこの映画を作るにあたって意識したのではなかろうかという小説がいつも頭を過るのだ。
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その小説とは、アメリカの作家ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの名作「狂気の山脈にて」(At the Mountains of Madness)である。
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この小説のざっくりとした内容はといえば、南極探検に出掛けた調査団が高度に進化した生物の痕跡を発見するという物語なのである。実際にこの小説を読んだのがずいぶんと昔であり、今現在手元にはないことから、ある程度ぼくの勝手な推察に過ぎないのであるが、ずいぶんと匂うところはある。
ご存じの方も多いと思うが、ジョン・カーペンター映画の中には、このラヴクラフトの作品群に大いに影響を受けたものが多数存在する。
特に顕著なものとしては、やはり「マウス・オブ・マッドネス」(In the Mouth of Madness)が挙げられるだろう。
直接的にラヴクラフトに関しての言及は作中には存在しないのであるが、ラヴクラフトを一度でもカジッたことのある人が観れば、それは火を見るよりも明らかである。
そういった経緯を考えると、やはり南極という舞台を描く際に、たとえ原作があったにせよ、「狂気の山脈にて」の影響は少なからず受け、なおかつ意識しているのではなかろうかとずっと前から思っていた。ぼく自身は原作である「影が行く」の存在を長らく知らなかったため、この「狂気の山脈にて」こそが、カーペンターが描きたかったことの一部なのではなかろうかと正直思っていたのだ。
まあ冒頭の話の一部に戻るが、昨今(あるいはもっともっと太古から)の世界で蠢く多くの情報が必ずしも真実だとは限らないし、なんだったらほとんどが情報操作や捏造、あるいは虚構や誰かの思い込みであったりする限りは、カーペンター本人に直接聞いてみないことには真実はわからない。
ただ映画の楽しみ方として、その映画に深く根ざした秘密のようなものを勝手にあれこれ妄想するのはじつにおもしろいし、実際にはそういうことこそ映画の楽しみ方の醍醐味であったりすると思う今日このごろである。
そんなわけで、実は「遊星からの物体X」が事実に基づく物語で、その隠蔽のためにアメリカ政府があえて原作付きで映画にしているというような筋書きがあっても、まったく驚きはしないのである。もともと映画というメディア自体が、ある部分においてはそういった一面を持っていることは明白の事実であるから。
といったところで、まったくまとまらずに終着しているが、今回のみんな大好き地球外生命体映画、第三項のお開きとさせていただこう。
月白貉