ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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氷猫

「ひなたも、めっきり寒いです。」

 

透きとおった氷のように青い毛の色をした猫が、大きな銀杏の樹の下で丸くなっていた。

 

「うかうかひなたぼっこもできません。」

 

そう呟く猫のまわりには、木から落ちてきた銀杏の実がたくさん転がっていた。ぼくがしゃがんで、その銀杏の実をひとつつまみ上げると、

 

「その実を、私の頭にのせてみてください。」

 

と猫が言うので、ぼくはそのつまみ上げた実を、猫の頭にのせてみた。するとその実は、まるで焚火の中から飛び出てくる栗みたいに、パチーンと大きな音をたてて空に向けて跳ね上がった。

 

そして、そのまま落ちてくることはなかった。

 

猫はくすくすと笑っている。

 

「あれはいったいなんですか?」

 

とぼくが尋ねると、

 

「あれは豆鉄砲という名前の虫です。ギンナンバシリともいいます。」

 

「まめでっぽう?」

 

「はい、もちろんです。銀杏の実にそっくりですが、よく銀杏の樹の下に落ちている実のようなものの九割は、豆鉄砲です。」

 

「へえ、それは知りませんでした。」

 

「はい、もちろんほとんどの人間はそのことを知りません。そのことを知るのは、山嵐と氷猫くらいなものです。」

 

「氷猫?それは猫の一種ですか?」

 

「はい、もちろん猫の一種です。冬の始まりを告げるために、銀杏の樹のしたにあるシャンバラから這い出てくる猫の一種です。」

 

「あなたは氷猫ですか?」

 

「はい、もちろん氷猫です。」

 

「では、冬の始まりを告げに?」

 

「はい、もちろん冬の始まりを告げにです。では、失礼。」

 

そう言うと氷猫はすっと立ち上がって、「ふゆですよ~。」と叫びながらものすごい速さで走り去って行った。

 

氷猫の頭から飛んで行った豆鉄砲は、空から落ちてくることはなかった。

 

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