氷猫
「ひなたも、めっきり寒いです。」
透きとおった氷のように青い毛の色をした猫が、大きな銀杏の樹の下で丸くなっていた。
「うかうかひなたぼっこもできません。」
そう呟く猫のまわりには、木から落ちてきた銀杏の実がたくさん転がっていた。ぼくがしゃがんで、その銀杏の実をひとつつまみ上げると、
「その実を、私の頭にのせてみてください。」
と猫が言うので、ぼくはそのつまみ上げた実を、猫の頭にのせてみた。するとその実は、まるで焚火の中から飛び出てくる栗みたいに、パチーンと大きな音をたてて空に向けて跳ね上がった。
そして、そのまま落ちてくることはなかった。
猫はくすくすと笑っている。
「あれはいったいなんですか?」
とぼくが尋ねると、
「あれは豆鉄砲という名前の虫です。ギンナンバシリともいいます。」
「まめでっぽう?」
「はい、もちろんです。銀杏の実にそっくりですが、よく銀杏の樹の下に落ちている実のようなものの九割は、豆鉄砲です。」
「へえ、それは知りませんでした。」
「はい、もちろんほとんどの人間はそのことを知りません。そのことを知るのは、山嵐と氷猫くらいなものです。」
「氷猫?それは猫の一種ですか?」
「はい、もちろん猫の一種です。冬の始まりを告げるために、銀杏の樹のしたにあるシャンバラから這い出てくる猫の一種です。」
「あなたは氷猫ですか?」
「はい、もちろん氷猫です。」
「では、冬の始まりを告げに?」
「はい、もちろん冬の始まりを告げにです。では、失礼。」
そう言うと氷猫はすっと立ち上がって、「ふゆですよ~。」と叫びながらものすごい速さで走り去って行った。
氷猫の頭から飛んで行った豆鉄砲は、空から落ちてくることはなかった。
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月白貉