ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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アカチシオタケ(Mycena crocata)- 松江城マッシュルームマップ

リドリー・スコットが監督したSF映画の名作「エイリアン」の中に出てくるアンドロイドは、怪我をすると白い色をした血液を流す。

 

 

それが踏襲されてなのか、あるいはアンドロイドの血液成分の設定が科学的根拠に基いて白色とされているのかは定かではないが、その後のエイリアンシリーズに登場するアンドロイドも体内に白色の血液が流れていて、怪我をすると白い色の血液を流すのである。

 

他のSF映画に登場するアンドロイドが、さて果たしてどんな色の血液を流していたかなあと記憶を探ってみるのだが、意外とそんなシーンはあまり見たことが無いような気がする。おそらく映画に登場するアンドロイドの多くが、血液成分を持たない完全なる機械として描かれていることが多いためではないかと憶測する。もちろん映画の予算の関係上、精密なアンドロイド設定にすると厄介だからだということもあるかもしれない。

 

アンドロイドが出てきて大いに怪我をするSF映画の代表といえば、今思いつく限りだと「ターミネーター」ではないかと思う。

 

アーノルド・シュワルツェネッガーが演じるT800は、劇中でかなり銃弾を受ける。銃弾を受けて受けて受けまくって、サラ・コナー(リンダ・ハミルトン)とカイル・リース(マイケル・ビーン)の運転する車とカー・チェイスを繰り広げた後、コンクリートの柱らしきものに激突する。その後のシーンでT800が怪我だらけの自分自身を治療するシーンが出てくるのだが、眼球を外して洗面所の水の中に落とす際に、確かその擬似眼球に赤い色の血液が付着している。その後のシーンでも、擬似眼球のはめ込んであった部分をタオルで拭って内部の金属骨格が見える下りがあるのだが、拭ったタオルにはベットリと赤い色の血液が付着している。

 

ちなみに話の途中であるが、いま実際にターミネーターを鑑賞しながらこの文章を書いているわけではなく、あくまで遠い記憶をもとに思い出して書いているので、シーンの詳細が若干荒削りであることはご容赦いただきたい。

 

話に戻ろう。ということは、ターミネーターに出てくるアンドロイドには人間と同じ赤い色の血液成分あるいは人間に見せかけるための擬似血液が流れているということになる。

 

もう少しアンドロイドの血液のことについて深く言及してゆきたいのであるが、話がまったくきのこと関係なくなるので、それは後半のお楽しみということで、ひとまずきのこに戻ろうと思う。

 

というわけで、今回のハンティングきのこは「アカチシオタケ」である。

 

アカチシオタケ(Mycena crocata)- 松江城マッシュルームマップ

 

ラッシタケ科クヌギタケ属のきのこで、学名を「Mycena crocata」、漢字で書くと「赤血潮茸」である。

 

傘の径は1cmから4cmほどで、色は灰黄褐色、中央部分が橙褐色をしている。柄の長さは10cmから長いものになると20cmほどになると言われ、色は橙朱色をしている。写真の個体を見ていただくとわかるように、割と地味な色をしている傘に比べるとずいぶんと鮮やかな色の柄をしている。

 

このアカチシオタケは、以前にご紹介したことのある「チシオタケ」というきのこのバージョン違いのようなものである。

 

チシオタケは傘などを傷つけると赤い血のような液体を流すという大きな特徴を持っていて、それが和名の由来にもなっているのであるが、動物の血液のような赤黒い血を流すチシオタケに対して、アカチシオタケは橙色の血を流す。「アカ」と冠を掲げているので、どちらかと言うと赤い血を流すのはアカチシオタケの方が似合っている名前なのであるが、何故かノーマルのチシオタケが赤い血を流し、アカチシオタケは橙色の血を流すのである。

 

チシオタケについては以下の記事に詳しいので、そちらをご覧頂きたい。

 

 

さて、きのこはひとまず置いておいて、お待ちかねのアンドロイドの話に戻ってみようと思う。

 

ここで少し、T800の血液が赤い理由を知るために、T800の性能部分について詳細を探ってみたいと思っている。

 

ターミネーターに登場するアンドロイド「T800」の正式名称は、もちろんみなさんも御存知かと思うが、「Cyberdyne Systems Model 101 Series 800 Version 2.4」 である。これはサイバーダイン・システムズ社が開発したTシリーズと呼ばれるアンドロイドのプロトタイプを、後にスカイネットが人間抹殺用として試作開発および量産した際の型番であり、スカイネットはこのT800シリーズのアンドロイドを2018年に試作開発し、2026年には量産に持ち込んでいる。

 

T-800シリーズは培養されて作られた人間と同様の生体細胞でチタン合金の金属骨格を覆っており、人間との識別がつきにくいように工夫されている。つまり筋肉、皮膚、毛髪、血液などの擬装用の生体組織部が、機械のアンドロイドを着ぐるみのようにすっぽり被っているわけである。

 

「エイリアン」に登場するアンドロイドに比べると、用途はもちろん、性能も大幅に違っている。

 

上記の通り、T800シリーズの生体組織部はあくまで人間を偽装するために被せられているに過ぎず、損傷や欠損をしても本体のアンドロイドの動作にはほとんど影響しない。さらには銃撃などによる損傷箇所が本体の動作の妨げになった場合や、人間への偽装が不要と判断した場合には、アンドロイド自らが生体組織部を剥がす行動を起こす。また先に述べた映画のシーンにもあったように、損傷箇所を修理するために、生体組織部を切り開くこともあるのである。

 

ただし、この人間擬装のための生体組織部は、金属骨格の可動部品の動作音を抑える防音効果を兼ねているため、剥がれた場合はその効果が失われてしまうのである。その対処法機能として、剥がれた部分の表面を衣服や手袋などで覆うようにプログラムされている。これも劇中で確認できる機能であるが、衣服や手袋はあくまでただの布や革なので、おそらく防音効果は期待できないと思うのはぼくだけではないはずである。

 

「エイリアン」に登場するアンドロイドについても後ほど少しだけ言及するが、乗りかかった船ということで、もう少しT800シリーズのことについて書いてみようと思う。

 

T800シリーズの生体組織部には人間と同様の自然治癒能力が備わっており、切創や銃創程度なら自然治癒する。しかし、著しい損傷を受けた場合は適切な処置を施さなければもちろん組織は腐敗して死んでしまう。生命体としての痛覚は備えていないため、生体組織に著しく損傷を受けてもアンドロイド本体の行動には支障をきたさないが、機能としての痛覚はプログラムされており、痛みをデータとして記録蓄積している。

 

また生体組織部の細胞が人間のものとは大きく異なる点についてであるが、水分や栄養分などの補給を一切必要とせずに、細胞の維持を完全独力で行うことができるのである。そのため、もちろん人間のように食事によって栄養や水分を摂取する必要はなく、食物を消化して栄養分を吸収する機能も搭載されていない。これら細胞組織の新陳代謝がどのように行われているかについて詳細は不明であるが、年月の経過によって徐々に老化あるいは劣化が進んでゆくことが確認されている。

 

なお、T800シリーズの上位型、「T-888」は食物を摂取して本体自体のエネルギーに変換することが可能であるという。

 

このようにしてみてみると、T800の血液が赤い理由が、ほぼ人間偽装という目的のためだけのものであることが十分に理解できる。T800シリーズについてはまだまだ述べるべきことは多いのであるが、T800シリーズ概論ではないゆえ、先に進もうと思う。

 

さて一方、エイリアンに登場するアンドロイドの正式名称をご存じの方はそれほど多くはないと思う。

 

劇中では科学主任としてノストロモ号に乗船している「アッシュ」(イアン・ホルム)であり、乗船している他のメンバーには自分がアンドロイドであることを事情により隠しているのであるが、アンドロイドとしての正式名称を「Hyperdyne Systems 120-A/2」という。

 

これはもちろんリドリー・スコットが監督を務める第一作目の「エイリアン」の中ではいっさい語られてはいない情報である。このことは、第二作目である「エイリアン2」の中で登場する「ビショップ」(ランス・ヘンリクセン)というアンドロイドの口から明かされる。ちなみにビショップ自体の正式名称は「Hyperdyne Systems 341-B」という上位型である。

 

SF映画に精通した方はもちろんご存知だと思うのだが、「エイリアン2」を監督しているのは「ターミーネーター」と同じジェームズ・キャメロンであることは言うまでもない。

 

 

そしてもうお気付きであろうが、ターミネーターでのアンドロイドの開発元が「サイバーダイン・システムズ」なのに対して、エイリアンでのアンドロイドの開発元は「ハイパーダイン・システムズ」なのである。単に名前が酷似しているということだけではないような怪しい匂いがプンプンとするが、関連企業か何かであろうか。

 

残念ながらハイパーダイン・システムズ社製のアンドロイドの詳細な性能を現在知り得ないため、あの白色の血液の件は、一旦保留とさせていただいて、今回はお開きとする。

 

「アカチシオタケ」の血がなぜ橙色なのか、そして「ハイパーダイン・システムズ」社製のアンドロイドの血がなぜ白色なのか、それはまたいずれお話しようと思うのである。

 

 

 

 

 

 

 

月白貉